夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「バレエ・シューズ」:1930年代のイギリスを背景に、歴史に名を残すと誓い合う三人の孤児の少女がその後の女性の生き方を示唆する

「バレエ・シューズ」(原題:Ballet Shoes)は、2007年にBBCで放送されたイギリスのテレビ映画です。1936年に出版されたノエル・ストレトフィールドのの同名児童文学作品を原作に、1975年にBBCによりテレビシリーズとして放送されたものを、サンドラ・ゴールドバッハー監督、エマ・ワトソンらの出演でテレビ映画として再映像化したもので、1930年代のロンドンを舞台に姉妹として育てられた孤児の少女3人の成長と絆を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:サンドラ・ゴールドバッハ
脚本:ハイディ・トーマス
原作:ノエル・ストレトフィールド「バレエ・シューズ」
出演:エマ・ワトソン(ポーリーン・フォッシル)
   エミリア・フォックス(シルヴィア・ブラウン)
   リチャード・グリフィス(マシュー・ブラウン (ガム) )
   ヤスミン・ペイジ(ペトロヴァ・フォッシル )
   ルーシー・ボーイントン(ポージー・フォッシル)
   ヴィクトリア・ウッド(ナナ)
   ほか

あらすじ

化石研究家のガムは、研究の旅の途中で出会った身寄りのない赤ん坊たちを次々とロンドンの自宅に連れて帰ります。その後、ガムは旅に出たまま消息不明になってしまい、ガムの姪シルビアが、残された3人の女の子を育てることになります。貧しいながらも明るく健やかに成長した3人は、やがてバレエ学校に通い始めますが・・・。

レビュー・解説 

「引き取ってくれた祖父のおかげと言われぬ様、自分たちの力で歴史に名を残す」と誓い合う三人の孤児の少女の物語ですが、1930年代のイギリスの雰囲気と原作の清々しい香りが感じられる素晴らしい作品です。

 

かつて「大英帝国に日が沈むことはない」と言われたイギリスですが、1900年頃の植民地は、

と、まさに世界に広がっていました。しかし、この頃、イギリスは既にアメリカに工業生産高で抜かれており、さらにその後、第一次世界大戦への派兵や物資供給、そして1929年の世界恐慌の影響で次第に疲弊していきます。原作が出版された1938年は、第二次世界大戦前夜、イギリスがさらなる疲弊へと向かいつつある時代です。

 

そんな時代背景から見ると、この映画はやがて来る時代に向けて女性の生き方を示している様でもあります。厳しい時代の最中、三人の姉妹が歴史に名を残すと繰り返して誓う姿や、次女がパイロットを夢見ること、博士号を持つ間借り人の女性2人など、か弱い女性が主人公のおとぎ話とは少し趣が異なります。

We three Fossils vow to put our names in the history books because it is uniquely ours and ours alone, and no one can say it's because of our grandfathers.

我々フォッシル家の三人は、誰にも祖父のおかげと言われぬ様、自分たちの力で歴史に名を残すことを誓います。

 

様々な経歴を持つ間借り人たちも、そんな少女たちに助力を惜しみません。厳しい時代にお金の心配をしつつ、夢と現実をみつめ、失敗しながら様々なことを学んでいく少女たちの姿は感動的です。この作品が時代を超えて愛されている理由は、そこにあるのではないかと思います。余談になりますが、アメリカ映画「ユー・ガット・メール」(1998年)で、「娘に『靴』の本を読ませるべき」と友人に言われて探しに来た女性客に、主演のメグ・ライアンノエル・ストレトフィールドの「バレエ・シューズ」を紹介するシーンがあります。ノーラ・エフロン監督が脚本に愛読書を入れ込んだのでしょうね。

 

日本は今、少子高齢化に直面し、国勢衰退の瀬戸際にいます。若者の意欲は減退、海外への留学生は減る一方で、引きこもり状態になりつつあります。いつまでも同居して親のスネをかじる者もいれば、高齢者は資産を溜め込まず金を回せ、シルバー・デモクラシーはまずい、高齢者の選挙権を制限しろと主張する者もいます。少子化の世代は、「少なく産んで大事に育てる」と大切にされた世代ですが、果たしてそれで良かったのかどうか?内にこもり、ごねてばかりでは、世界の厳しい競争の中で生き残れません。人口動態など物理的構造のみならず、精神構造をどう受け継いでいくかも日本の課題でしょう。日本人は子供に甘いと言われますが、「独力で歴史に名を残せ」くらいの厳しい教育が必要なのかもしれませんね。

 

エマ・ワトソン(ポーリーン・フォッシル)

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映画「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー・グレンジャー役で知られるイギリスの女優。シリーズ出演中より、「ステレオタイプにはなりたくない」と、役者として活躍する姿勢を見せており、本作はシリーズ以外の映画初出演。本作では舞台、映画に出演する少女を演じており、実生活とオーバーラップしつつ、役者としての片鱗をうかがわせている。

 

エミリア・フォックス(シルヴィア・ブラウン)

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イギリスの女優。「戦場のピアニスト」(2002年)など映画に出演する一方、BBCの連続TVドラマでも有名。本作は三人の孤児の少女の母親代わり健気に務める女性を演じている。

 

リチャード・グリフィス(マシュー・ブラウン (ガム))

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イギリスの俳優。イギリスでは広く知られた舞台俳優で、テレビ・映画にも数多く出演している。映画「ハリー・ポッター」シリーズでバーノン・ダーズリー役を一貫して演じた。本作では、世界を駆け回り孤児を連れて帰る考古学者を演じている。2013年、心臓手術後の合併症の為、65歳で逝去。

 

ヤスミン・ペイジ(ペトロヴァ・フォッシル)

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イギリスの女優。「サブマリン」(年)、「嗤う分身」(2014年)などの映画に出演する他、TVドラマシリーズで活躍している。本作では女性パイロットになることを夢見る少女を演じている。

 

ルーシー・ボーイントン(ポージー・フォッシル)

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イギリスの女優。「ミス・ポター」(2006年)、「シング・ストリート」(2016年)などの映画に出演する傍ら、TVドラマでも活躍している。本作では、バレリーナを目指す少女を演じている。

 

ヴィクトリア・ウッド(ナナ)

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イギリスのコメディアン、女優、シンガー・ソングライター、脚本家、監督。「たのしい川べ」(1996年)など、映画にも出演しているが、テレビでの活躍が顕著で、数多くの賞を受賞している。本作では、孤児たちの母親代わりのシルヴィアを支える乳母を演じている。2016年、末期癌の為、62歳で逝去。

撮影地(グーグルマップ)

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関連作品 

「バレエ・シューズ」の原作本(Amazon

  Noel Streatfeild "Ballet Shoes"

 

サンドラ・ゴールドバッハー監督作品のDVD(Amazon

 「視姦」(1998年) 

  
「ミー・ウィズアウト・ユー」(2002年)・・・北米盤、リージョン1、日本語なし

 

エマ・ワトソン x リチャード・グリフィス共演作品のDVD(Amazon

  「ハリー・ポッター」シリーズ(2001年〜)

 

エマ・ワトソン出演作品のDVD(Amazon

  「マリリン 7日間の恋」(2011年)

  「ウォールフラワー」(2012年)

  

「ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日」(2013年)

  

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019年)輸入盤、日本語なし

 

リチャード・グリフィス出演作品のDVD(Amazon

  「ウィズネイルと僕」(1987年)

  「ヴィーナス」(2006年)

  「ヒューゴの不思議な発明」(2011年)

 

エミリア・フォックス出演作品のDVD(Amazon

  「戦場のピアニスト」(2002年)

 

ヤスミン・ペイジ出演作品のDVD(Amazon

  「サブマリン」(2010年)

  「嗤う分身」(2014年)

 

ルーシー・ボーイントン出演作品のDVD(Amazon

  「ミス・ポター」(2006年)

  「シング・ストリート 未来へのうた」(2016年)

  「アポストル 復讐の掟」(2018年)

 

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  「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年)

  「フェーム」(1980年)

  「ダーティ・ダンシング」(1987年)

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  「ハートビート」(2016年)

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