「名もなき塀の中の王」は、2013年公開のイギリスの監獄ドラマ映画です。刑務所でのセラピストの経験をもつジョナサン・アッセルの脚本、デイヴィッド・マッケンジー監督、ジャック・オコンネルらの出演で、少年院で深刻な暴力事件を起こし暴力に支配された刑務所に移送された不良少年と、彼を守ろうとするセラピストと同じ刑務所に服役中の父の姿をリアルに描いています。
監督:デイヴィッド・マッケンジー
脚本:ジョナサン・アッセル
出演:ジャック・オコンネル(エリック・ラブ)
ベン・メンデルソン(ネビル・ラブ)
ルパート・フレンド(オリバー・バーマー)
ほか
【あらすじ】
19歳のエリック・ラブ(ジャック・オコンネル)は少年院で暴力事件を起こし、日頃の素行の悪さと事件の深刻さから刑務所へ移送されます。向こう気の強いエリックは刑務所内でも反感を買いますが、刑務所のセラピストや、エリックが幼い時に生き別れた長期服役中の父のネビル(ベン・メンデルソーン)が彼を庇います。グループ・セラピーに参加したエリックは、次第に怒り暴力を抑える術を学びますが、エリックのこれまでの行動を問題視していた勢力が動き始めます・・・。
刑務所でのセラピストの経験をもつジョナサン・アッセルの脚本、実際の刑務所を使って撮影したデイヴィッド・マッケンジー監督の演出、ジャック・オコンネル、ベン・メンデルソン、ルパート・フレンドら俳優の好演が光る、リアルでスリリング、刺激的な監獄ドラマ映画です。
刑務所を描いた映画が面白い理由のひとつが、非日常の閉鎖空間に人間社会の縮図が展開されることでしょう。刑務所のセラピストの経験があるジョナサン・アッセルが刑務所内での出来事の脚本を書き、実際の刑務所で撮影するとなると、俳優は誰しも冥利に尽きると演技に力が入るのではないかと思います。実際、撮影の後半では、演技に力が入り過ぎ、監督が困ってしまう一幕もあったようです。
原題の「Starred Up」は、少年刑務所から成人刑務所への早期移送を意味します。刑務所にはご多分に漏れずそこを仕切る受刑者がいて、暴力によって秩序が維持されています。そこにやんちゃな19歳のエリックが移送されてくるのですが、刑務所は秩序が乱されるのではないかと警戒します。このあたり、一般社会の組織でもありそうな話です。
刑務所を背景に父と子の関係を描きたかった。そこに登場人物を集め、自分の刑務所での経験を生かす。階層構造のプレッシャーもまな板に乗せたかった。外の一般社会で人々が経験するようなね。人には他の人からの尊敬を維持するような方法が必要だ。でも、暴力に頼ってはいけない。それがセラピーであり、この映画で描きたかったことなんだ。(ジョナサン・アッセル)
メインキャストのジャック・オコンネル、ベン・メンデルソン、ルパート・フレンドも、他の助演俳優も、みな素晴しい演技ですが、特にジャック・オコンネルの演技が新鮮でインパクトがありました。実は、彼は斬新な演技法を試みていました。
台本の最後を読まないと決めた。自分に何が起こるか知りたくなかったから、演じる日の前夜に始めてセリフを覚えるという風にしたんだ。だから映画の中の僕の反応は演技とは言えないかもしれない。考えずに素で返す様にした。最後を知らない訳だから、どうにでもやれる。そのことがこの映画に深い意味を与えたと思う。(ジャック・オコンネル)
まさにその通りで、成人刑務所の怖さを知らない、やんちゃな若者の感じがとても良く出ています。
父、ネビル・ラブを演じるベン・メンデルソンもなかなか良かったです。刑務所の怖さを知るネビルは可愛い息子を守ろうとしますが、なにせ長期服役で生き別れ状態になっていただけあって息子への接し方が不器用。それでも、終盤に息子を心配する父とエリックが、懲罰房の壁越しに期待内言葉で罵り合うシーンはジーンと来ます。ベンは、そんなネビルを巧みに演じています。
ひとつだけ解せないのが、邦題の「名もなき塀の中の王」です。「塀の中」は刑務所であるのは間違いないと思うのですが、「王」が誰なのかわかりません。
- 刑務所を仕切る受刑者・・・主役ではない、王の威厳がない。
- 受刑者を操る刑務所の副所長・・・主役ではない、王の威厳がない。
- 所長・・・主役ではない、威厳はあるが女性なので女王でなければならない。
- エリック・・・主役で喧嘩は強いが、成人刑務所ではひよこで守られる立ち場。
・・・、謎です。
ジャック・オコンネル(エリック・ラブ)
ベン・メンデルソン(ネビル・ラブ)
ルパート・フレンド(オリバー・バーマー)
撮影が行われたベルファストのHM刑務所
ジャック・オコンネル出演作品のDVD(Amazon)
「名もなき塀の中の王」(2013年)
「ベルファスト 71」(2014年)
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