夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「わたしに会うまでの1600キロ」:最愛の母を失い生活が荒んだ女性が三ヶ月のハードな山中行で自分を取り戻すまでを描いた自伝の映画化

「わたしに会うまでの1600キロ」(原題:Wild)は、2014年公開のアメリカのヒューマン・ドラマ映画です。シェリル・ストレイドの自叙伝「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」を原作に、ジャン=マルク・ヴァレ監督、リース・ウィザースプーンらの出演で、何のトレーニングもせずに、極寒の雪山や酷暑の砂漠が待つ1600キロもの自然歩道を3か月をかけて必死に踏破する女性の姿を、回想を交えながら描いています。第87回アカデミー賞主演女優賞リース・ウィザースプーン)、助演女優賞ローラ・ダーン)にノミネートされた作品です。

 

 「わたしに会うまでの1600キロ」(Amazon

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ジャン=マルク・ヴァレ
脚本:ニック・ホーンビィ
原作:シェリル・ストレイド「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」
出演:リース・ウィザースプーンシェリル・ストレイド)
   ローラ・ダーン(バーバラ・ボビー・グレイ、シェリルの母親)
   ギャビー・ホフマン(エイミー 、シェリルの友人)
   ボビー・リンドストローム(幼少時のシェリル)
   トーマス・サドスキー(ポール、シェリルの元夫)
   キーン・マクレー(リーフ、シェリルの弟)
   マイケル・ユイスマン(ジョナサン)
   W・アール・ブラウン(フランク、シェリルを家に泊めてくれる男性)
   ケヴィン・ランキン(グレッグ、シェリルが道中で出会ったハイカー)
   ブライアン・ヴァン・ホルト(レンジャー)
   クリフ・デ・ヤング(エド 、道中の休憩所にいた男性)
   モー・マクレージミー・カーターシェリルにインタビューする男性)
   ジャン・ホーグ(アネット、フランクの妻)
   チャールズ・ベイカー(TJ 、シェリルが道中で出会うハンター)
   ジェイソン・ニューウェル(ロナルド・ニールンド、シェリルの父親)
   レイ・バークリー(ジョー、シェリルの昔の恋人)
   キャスリン・デ・プラム(ステイシー 、シェリルが道中で出会う女性ハイカー)
   エヴァン・オトゥール(カイル、シェリルが道中で出会う少年)
   アン・ジー・バード(ヴェラ、カイルの祖母)
   ランディ・シュルマン(シェリルのセラピスト)
   アン・ソース(ボビーを担当する看護師)
   マット・パスクァ: リーフの友達(ウェイン)
   シェリル・ストレイド(ホテルでシェリルを降ろす女性)
   ほか

あらすじ

シェリル(リース・ウィザースプーン)は、出発してすぐにバカなことをしているのではないかと後悔していました。今日から1人で、砂漠と山道が続く1600キロのパシフィック・クレスト・トレイルを歩くのですが、詰め込み過ぎた巨大なバックパックにふらつき、テントを張るのに何度も失敗、その上、コンロの燃料を間違えたせいで、冷たい粥しか食べられません。この旅を思い立った時、彼女は最低な日々を送っていました。どんなに辛い境遇でも、いつも人生を楽しんでいた母(ローラ・ダーン)の死に耐えられず、優しい夫を裏切っては薬と男に溺れる、遂に結婚生活も破綻しました。このままでは残りの人生も台無しになる・・・。母が誇りに思ってくれた自分を取り戻すために、パシフィック・クレスト・トレイルを一人で歩き通すことを決意しました。極寒の雪山や酷暑の砂漠に行く手を阻まれ、命の危険にさらされながら、シェリルは自分と向き合います・・・。

レビュー・解説 

原作の魅力をフルに引き出すジャン=マルク・ヴァレ監督の演出と、リース・ウィザースプーンローラ・ダーンの熱演が素晴しい映画です。

 

ジャン=マルク・ヴァレ監督は、シェリル・ストレイドの自叙伝の感情を揺り動かす語りを生かしながら、手際よくシーンをまとめ、登場人物の輪郭を描き出しています。この点について彼は次のように語っています。

私がこの作品を選んだのではなく、作品が私を選んだんだ。チームの一員になれて光栄だったし、この物語を世界に伝えることができて良かった。シェリルの友達になりたいと思った。彼女のストーリーを読んで、地球という惑星で、荒野の中で、我々がどれほど小さな存在か、自然と深くつながっているか、どれだけ力強い存在になり得るかについて考えた。映画を原作と同じように感動的にするにはどうすればいいか?その答えは、シェリルの声に忠実になることだ。シェリルは生と死、愛と悲しみについて、徹底した率直さで考える。そして何が悪いかを知ろうとするんだ。(ジャン=マルク・ヴァレ監督)

 

観る前は自分探しの旅の話だろうくらいに思っていたのですが、実際に観てみると予想外にハードな内容でした。原作のタイトル「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」が暗示するように自分を取り戻す旅の物語ではあるのですが、旅に出る前の主人公の荒んだ生活が凄まじい。実は原題の「Wild」には、「気違いじみた」という意味があり、原作者のシェリル・ストレイドはタイトルの由来について次のように語っています。

母は私の人生の根っこのような存在だったわ。それを突然、失ってしまったの。私の母への愛は気違いじみていたわ。だから気違いじみた悲しみに襲われた。そして、私の生活は気違いじみたものになったしまったの。(シェリル・ストレイド)

 

シェリス・ストレイドは、思い立って自分を取り戻す為の旅に出るのですが、その時の覚悟について彼女は次のように語っています。

私の人生はいろんな意味で崩壊していたわ。そして私の最大の恐怖は、この旅でまた失敗することだった。もう失敗は許されなかったの。友達に電話して、「私がどれだけPCTに行きたかったか知ってるわよね。でも、行かなかったの。」と言うには、私のプライドは高すぎた。だから私は、どうしても、どうしても、バックパックを背負っわなければならなかったの。いい気分じゃなかったわ。とても嫌な気分で、苦痛だった。でも、私は行かなければならなかった。今になってその理由が分かったの。私は、重い荷物を背負う必要があったの。耐えられないほどの重荷を背負う必要があったの。本に書いたのはそういうことなのよ。耐えられない重荷に、どうやって耐えるかということなの。(シェリル・ストレイド)

 

子供の頃は電気も水道も引かれていないような土地に暮らしていたシェリルですが、足の爪が6枚もはげるほど、旅は過酷なものでした。

精神的なものを求めて旅に出たわ。でも私を待ち受けていたのは肉体的な試練だった。私は精神的なものと、この肉体的試練の関係が分からなかった。バックパックが化け物のように重い時、私の内面もそうだったのよ。肉体的な部分が精神的なものをもたらしていたの。

私は過ぎていく時間を受け入れなければならなかったわ、果てしない距離も、暑い夏もね。そして私の人生も。それを繰り返しているうちに分かって来たわ、もし私がこれらのことを受け入れることができれば、道が見えてくるって。徐々に分かって来たのよ。私たちはみんな苦しんでいる。 張り裂けるような胸の痛みを抱えている。難しいことをことを抱えている。それらは人生の一部なのよ。それが分かった時、とても深遠な気分になったわ。パシフィック・クレスト・トレイルは、謙虚になることの深遠な意味を教えてくれた。それは必要なことなのよ、文字通り歩き続ける時も、ものの例えとしてもね。(シェリル・ストレイド)

 

シェリル・ストレイドを演じたリース・ウィザースプーンは「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(1999年)や「キューティ・ブロンド」(2001年)で注目され、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(2005年)でアカデミー主演女優賞を手にします。しかし、最初の夫と2006年に別居、2007年に離婚したことを契機に低迷します。

脳がスクランブル・エッグのような気分の時にクリエイティブなことなんてできない。作品を情熱的に作り上げることができなかった。ただ淡々と仕事をするだけ。私の公開作品に観客が何も反応しないのは明らかだった。(リース・ウィザースプーン

リースは2010年に再婚しますが、2011年に彼女の元に発刊前の「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」のゲラ刷りが送られて来ます。シェリルを演じられるのはリース以外にいないと考えた原作者のシェリル・ストレイドが送ったものでした。作品にポテンシャルを感じたリースは直ちに映画化の権利を購入、彼女が立ち上げたプロデュース会社を通じて映画化に着手しました。原作は発刊後、注目を浴び、ベストセラーとなり、映画もヒット、リースもアカデミー主演女優賞にノミネートされ、女優としての名声を取り返すことができました。

 

撮影は、彼女がそれまでに経験したことがないほど、ハードなものだったそうです。ロマンティック・コメディのヒロインという印象が強かった彼女ですが、頻繁な全裸のベッドシーンもさることながら、自然光の元、「ノーメイク風のメイク」もしない本当のスッピンで、撮影現場の鏡という鏡にすべて覆いが被せらたのが応えたそうです。見せるのが仕事の女優が、メイクをせずに鏡も見れないというのは、厳しいでしょうね。また、予めテントの張り方や炊事用のバーナーの使い方を教えてもらえない、バックパックに重そうに見えないと重しをどんどん加えられ、それを背負って何度も行ったり来たりしてから撮影するなど、徹底した演出だったそうです。

 

原作者のシェリル・ストレイドはリースを出発地のホテルへ車で送り届ける役でカメオ出演していますが、原作者が主演女優を送り出すという粋な演出です。シェリル・ストレイドは撮影、編集にも立ち会い、アドバイスをしており、リースもシェリルにいろいろと聞きながら演技をしています。テイクを撮り終えると、シェリルが目を真っ赤にしていることもあったそうです。

 

原作は1970年代の話ですが、当時のヒット曲、サイモンとガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」を、リースが道中、ハミングし、エンディングでオリジナルが演奏されるという効果的な使い方をしています。自己の解放のメタファーのようにも聞こえます。また、道中に出会った少年が歌うアメリカのフォークソング「赤い河の谷間」に母との別れを思い出してリースが泣き崩れます。歌詞を気にする事がなかったのですが、「赤い河の谷間」は実は悲しい歌で、アメリカ開拓の歴史とトレッキングと母との別れがオーバラップし、とても印象に残るシーンでした。

 

リース・ウィザースプーンシェリル・ストレイド)

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ローラ・ダーン(バーバラ・ボビー・グレイ、シェリルの母親)

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ローラは名優ブルース・ダーンの娘。

 

パシフィック・クレスト・トレイとシェリルの行程

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サウンドトラック 

「わたしに会うまでの1600キロ」のサウンドトラック(Amazon

 Wild: Original Soundtrack

iTunesで聴く*3  Amazon MP3で聴く*4

1.El Condor Pasa (If I Could) - Simon & Garfunkel
2.Walk Unafraid - First Aid Kit
3.Let 'Em In - Wings
4.I Can Never Go Home Anymore - The Shangri
5.Suzanne - Leonard Cohen
6.Don't Be Cruel - Billy Sawn
7.Be My Friend [BBC Session / Take 1] - Free
8.Something About What Happens When We Talk
- Lucinda Williams
9.Glory Box - Portishead
10.Tougher Than the Rest - Bruce Springsteen
11.Are You Going with Me - Pat Metheny Group
12.The Air That I Breathe - The Hollies
13.Homeward Bound - Simon & Garfunkel
14.Ripple - Dusted and Eric D. Johnson
15.Red River Valley - Evan O’Toole


撮影地(グーグルマップ) 

 

 「わたしに会うまでの1600キロ」(Amazon

関連作品 

「わたしに会うまでの1600キロ」の原作本Amazon

  Cheryl Strayed「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」

 

 Cheryl Strayed「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」(Kindle版)

 

ジャン=マルク・ヴァレ監督作品のDVD(Amazon

ダラス・バイヤーズクラブ」(2013年)

 

リース・ウィザースプーン出演作品のDVD(Amazon

  「カラー・オブ・ハート」(1998年)

  「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(1999年)

  「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(2005年)

  「MUD -マッド-」(2013年)

  「グッド・ライ いちばん優しい嘘」(2014年)

 

ローラ・ダーン出演作品のDVD(Amazon

  「ブルーベルベット」(1986年)

  「ランブリング・ローズ」(1991年)

  「ジュラシック・パーク」(1993年)

  「遠い空の向こうに」(1999年)

  「ザ・マスター」(2012年)

  「きっと、星のせいじゃない。」(2014年)

  「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(2014年)

  「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(2016年)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年)

  「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)

  「ジェニーの記憶」(2018年)

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