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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ルック・オブ・サイレンス」:真相の究明も補償もないインドネシアの大量虐殺事件の被害者と加害者が対峙する衝撃的なドキュメンタリー

「ルック・オブ・サイレンス」は2014年公開のデンマークドキュメンタリー映画です。、1965年インドネシアで起こった軍事クーデターに端を発し、共産主義者掃討を掲げた勢力に100万人以上が虐殺された事件に関して、兄を殺された眼鏡技師が、視力検査を装って権力者となった加害者に近付き、核心を突いた質問を投げかけていく姿を、ジョシュア・オッペンハイマー監督が捉えています。2010年代に入っても英雄として暮らす大虐殺の実行者たちに自分の行ったことを演じさせた、同監督の「アクト・オブ・キリング」(2012年)の姉妹編です。第71回ヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞、国際映画批評家連盟賞など計5部門を制覇、第88回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ジョシュア・オッペンハイマー

あらすじ

アディは、1960年代にインドネシアで繰り広げられた大虐殺、いわゆる「9月30日事件」で兄が殺された後に生まれました。彼の老いた母は、加害者たちが今も権力者として同じ村に暮らしているため、半世紀もの間、亡き我が子への想いを胸の奥に封じ込め、アディにも多くを語らずにいました。2003年、アディはジョシュア・オッペンハイマー監督が撮影した、加害者たちへのインタビュー映像を目にし、彼らが兄を殺した様子を誇らしげに語るさまに強い衝撃を受けます。 「殺された兄や、今も怯えながら暮らす母のため、彼らに罪を認めさせたい」 そう願い続けたアディは、2012年に監督に再会すると、自ら加害者のもとを訪れることを提案します。しかし、今も権力者である加害者たちに、被害者家族が正面から対峙することはあまりに危険です。眼鏡技師として働くアディは、加害者たちに「無料の視力検査」を行いながら、徐々にその罪に迫っていきます。アディが警戒をかわしながら質問を投げかけていくうちに、加害者たちの言葉から「責任なき悪」が浮かび上がり、母も知らなかった事実が明らかにされていきます・・・。

レビュー・解説 

反共のスハルト政権が30年以上も続いたため、学校教育では賞賛され、真相が明らかにされることも、補償もないままに見逃されて来たインドネシアの大虐殺事件の被害者と加害者が対峙するという、衝撃的なドキュメンタリーです。

 

9月30日事件とは、1965年9月30日にインドネシアで発生した軍事クーデター未遂事件で、事件後のスハルトによる首謀者・共産党勢力の掃討を含めて9月30日事件と総称されています。事件の背景として、国軍と共産党の権力闘争、スカルノの経済政策の失敗、国際政治におけるインドネシアの孤立などがあり、この事件を契機として、東南アジア最大だったインドネシア共産党は壊滅し、初代大統領スカルノは失脚しました。事件の詳細な経緯は、未だ多くの謎に包まれています。反共のスハルト独裁政権が30年以上続いたことから、加害者は罪に問われず、虐殺の実態は現在も解明されていません。スハルトは既に死亡し、本人の口から真相を聴くことは不可能となり、また事件後の共産主義者狩りに動員された人々の多くが報復を恐れて口を閉ざしていることも、事件の全貌を解明することを難しくしています。

 

共産主義者、特に中国系の集団虐殺が行われ(華語教育や文化活動も禁止された)、20世紀最大の虐殺の一つとも言われますが、被害者は50万人前後とも、最大推計では300万人とも言われるその数は今日でも正確には把握されていません。また、映画の中では虐殺には軍は直接、手を下さず、巧みにプロパガンダを行い、民間人に虐殺させたと語られています。アンディに対する加害者本人や、その家族の反応も様々ですが、加害者が大手を振って歩き、被害者が息をひそめているのはおかしいでしょう。真実の解明も難しく、簡単に答えが出る問題ではないかも知れませんが、同じ事を繰り返さない為にも、総括が必要なのではないかと思います。

 

アディ

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アディの母

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視力検査を装って加害者に近づく

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加害者とその娘

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小学校教育の一場面〜「ルック・オブ・サイレンス」

教師:共産主義者は残酷だ。共産主義者は神様を信じていない。政治のシステムを変える為に共産主義者は6人の将軍達を誘拐したんだ。そして将軍達の顔をカミソリの刃で切り刻んだ。やられたいか?目をえぐりとられたら、どれだけ痛い?目が取り除かれるんだぞ。鶏をさばく時だって、すぐに殺さないと残酷だろう?
生徒:残酷です。
教師:共産主義者は残酷だった。だから政府は彼らを取り締まったんだ。政府は彼らを取り締まって収容所に閉じ込めた。彼らの子供が大人になっても公務員になれない。おい、お前達は共産主義者の子供だ。政府の仕事には?
生徒:就けない。
教師:おい、お前のじいさんは共産主義者だった。軍に入れない。おい、お前のばあさんは共産主義者だったな。だから入れない。警察にも入れない。国家に反逆すれば収容所に放り込まれる。ちゃんと感謝しなければいけないよ。私たちの国の為に英雄達が戦ったから、今のシステムが出来た。


議員の見解〜「ルック・オブ・サイレンス」

アディ:犯罪が大きすぎて認めたくない?
議員:いや、大きな犯罪とは思っていない。それは違う。
アディ:でも、100万人以上が殺されたんですよ。
議員:それが政治だ。政治とは理想を実現する過程だ。方法は様々だ。そうだろう?
アディ:1971年からあなたは議会のトップに君臨し、政治を動かしてきました。ここには無数の犠牲者が住んでいます。あなたが殺した人たちの家族に囲まれて、政治なんか行えますか?どうやるんです?
議員:説明してやろう。君は政治について話したいんだな。犠牲者の子供たちが私を嫌うなら、こんなに票が集まらない。再選されない。これが証拠だ。私は傲慢じゃない。人を怒らせたりしない。機嫌をとる。いろんな形で有権者に会いにいく。
アディ:票を集める為に人を脅す事は?
議員:まさか、ありえない。
アディ:私が生まれたのは、1968年2月でした。僕の兄は大虐殺の犠牲者です。あなたの部下にむごい殺され方をしました。
議員:私は聞きたい事がある。前のような虐殺が再び起こることを、犠牲者の家族が望むと思うか?
アディ:まさか。
議員:それなら、変われ。過去の問題を騒ぎ立て続ければ、同じような事が再び起こる。遅かれ、早かれな。きっと、また起こる。

 

私たちを家族と思って〜「ルック・オブ・サイレンス」

加害者の娘:私が知ったのは中学生の時よ。父が多くの共産主義者を殺したと何人かに聞いた。共産主義者の撲滅に貢献したなんて、父を誇らしく感じたわ。おかげで私の父は、このあたりで有名人だった。
加害者:女の首を中国人の喫茶店に持ち込んだことがある。店主は叫んだ。(笑い、中国語の真似)
アディ:女の首を持っていったんですか?店に?
加害者:そうだ。
アディ:中国人を脅す為に?何故、そんなことをしたんですか?何の得が?
加害者:頭を投げた。
加害者の娘:何故、中国人を脅したか聞いている。
加害者:怖がらせる。
加害者の娘:それだけ?
加害者:それだけだ。
加害者の娘:怖がらせるためよ。
加害者:それから投げた、ゴミ箱に。俺はあいつらを殺しては、川に捨てたんだ。あいつらの手は縛られていた。後ろでな。ガラスを持って来て、あいつらの喉を切り裂いた。大勢いたのにあなたが全員を切った?いや二人掛かりだ。ガラス二枚で十分だった。二人でやった。
アディ:どこから、血を採ったんですか?
加害者:もちろん、喉さ。コップに。
アディ:喉を切り裂き、コップに?
加害者:飲んだ。
アディ:どうして血を飲んだんですか?
加害者:そうすれば、狂わずにすむ。
アディ:あなたの父親は、多くの人を殺した。おまけに彼らの血を飲んだ。どう思います。
加害者の娘:初めて聞いたわ。恐ろしいわね。父が人の血を飲んだなんて。
アディ:初めて聞いた?お気持ちは?
加害者の娘:どう言えば?初めてだもの。サディズムよ。血を飲んだから元気なのかもね。そんなこと聞いてなかった。
アディ:実は、僕の兄も殺されました。あの頃に。
加害者:そろそろ時間だ。
加害者の娘:お兄さんを殺した父を許してあげて。私たち子供は知らなかった。当時は、まだみんなとても幼かったのよ。私の気持ちは・・・。
アディ:父親が人殺しでも、あなたのせいじゃない。責任はない。何をしようと父親に変わりない。
加害者:もう時間だ。
加害者の娘:待ってよ。見たことある。前に会った?仕事で?
アディ:知ってる気がする。
加害者の娘:これからはもう家族ね。
加害者:子供をモスクへ。
加害者の娘:どうか父のことを許してあげて。私たちを家族と思って。もう年寄りよ。自分の父だと思って。うちへ寄ってね。私が世話をしているの、認知症なのよ。ほとんど覚えていない。年寄りで認知症よ。私は死後を辞めて世話をしている。誰かが父を訪ねに来ても、父には誰だかわからない。家族も覚えていない。私が世話をしている。
アディ:じゃあ、失礼します。さようなら。 

 

傷が開いてしまった〜「ルック・オブ・サイレンス」

アディ:あなたのご主人はかつてこの地域で、32人の共産主義者を殺しました。本当はご主人に会いたかったけれど、もう亡くなっていました。せめてご家族に会いたくて来ました。このあたりで殺された32人のうち、一番ひどい目にあったのが兄のラムリでした。兄は肩を切られました。おなかを刺されて腸が飛び出しました。背中も刺されたが、家に逃げ帰った。兄は前庭から母を呼んだ、「母さん」と。母は中に入れたが、翌朝、連れて行かれた。司令官だったご主人が連れて行ったんです。彼は言った、「病院へ連れて行く」とね。だが、トラックの中で兄を切りました。
加害者の妻:そんな・・・。
アディ:兄はペニスを切られて死にました。ご主人はその絵まで描いています。
加害者の妻:そんな本、見た事ない。主人にもらった?
ジョシュア:ええ、覚えてませんか?
アディ:これが僕の兄です。これは母。これが兄。ご主人の絵です。
加害者の妻:主人は何も言わなかったわ。知らなかった。本はあったけで、読んでない。殺してないと聞いた。
ジョシュア:ご主人の本です。
加害者の妻:本当?
ジョシュア:はい。
加害者の妻:私たちは知らない。
加害者の息子A:父が何をしていたかなんて知らなかった。まだ、幼かった。父から何も聞いてないし、知らなかった。
ジョシュア:皆さんの気を悪くしたくない。
加害者の妻:私はずっと病気なのよ。
ジョシュア:アディが来たのは、本音で話す為です。
加害者の息子B:みんな、近所の友人だ。たとえ両親を殺されても、俺たちはみんな友人だ。それなのに、傷口が開いてしまった。ジョシュアが映画を撮り、父が本を書いた。そのせいで、傷が開いてしまった。俺を知ってたか?
アディ:もちろんです。知ってた。この家族をね。犠牲者は殺人者を知っている。ただ、復讐したい訳ではない。
加害者の息子A:それが君の望みか?復讐したいのか?
アディ:それなら、こうして来ない。
加害者の息子A:そうか、それがジョシュアの狙いだろ。
加害者の息子B:もし、俺が君の立ち場だとしたら・・・
加害者の妻:失礼。
加害者の息子B:俺が加害者や、その息子達に会ったら、どうするかな?
加害者の息子A:いい加減にしてくれ。母は病気なのに心に傷が残るじゃないか?過去は忘れてうまくやっていこう。本音で話したい?何も知らないのに、話せるか?
ジョシュア:これを見て。
加害者の息子A:何だ?
ジョシュア:スペースを押して。
(加害者のインタビューのビデオが流れる)
加害者の息子A:父を思い出すよ。こんなの見たくない。やめろ。こんなの耐えられない。消してくれ。
ジョシュア:他に言いたい事はある?
アディ:ない。
加害者の妻:アディ、ごめんなさい。私たちもあなたと同じように感じているわ。
ジョシュア:もう一度ビデオを?
加害者の息子A:そんなもの見たくない。何も知らないんだ。やめてくれ。丸く収めたくないのか?
加害者の妻:何も知らない。
ジョシュア:ここで、ご主人が説明を・・・。
加害者の息子B:いいか、俺たちは何も知らない。やめてくれ、ジョシュア。
加害者の妻:もう死んだ。
加害者の息子A:ジョシュア、君を歓迎したが、もう君のことは好きじゃない。

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  「アクト・オブ・キリング」(2012年)

 

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