夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「バーバー」:些細な欲が招く悲劇を美しい映像でアイロニカルに描く、コーエン兄弟の監督・脚本によるフィルム・ノワールの讃歌

「バーバー」(原題: The Man Who Wasn't There)は、2001年公開のアメリカのクライム・スリラー&コメディ映画です。監督のコーエン兄弟が「未来は今」を撮影中に集めた1940年代の様々な髪型のポスターを見た時に構想が浮かんだもので、ビリー・ボブ・ソーントンらの出演で、理髪師のささいな欲望から始まる悲劇の顛末を描いています。フィルム・ノワールを思わせる白黒映画ですが、カラーフィルムで撮影したものを編集でモノクロに変換したものです。2001年度のカンヌ国際映画祭監督賞を受賞、主演のビリー・ボブ・ソーントンナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞、撮影監督のロジャー・ディーキンス英国アカデミー賞撮影賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演:ビリー・ボブ・ソーントンエド・クレイン)
   フランシス・マクドーマンド(ドリス・クレイン)
   マイケル・バダルコ(フランク)
   ジェームズ・ガンドルフィーニ(ビッグ・デイヴ・ブリュースター)
   キャサリン・ボロウィッツ(アン・ナードリンガー・ブリュースター)
   ジョン・ポリト(クレイトン・トリヴァー)
   トニー・シャルーブ(フレディ・リーデンシュナイダー)
   スカーレット・ヨハンソン(バーディ・アバンダス)
   リチャード・ジェンキンス(ウォルター・アバンダス)
   クリストファー・マクドナルド(セールスマン)
   ほか

あらすじ

1949年夏、北カリフォルニアのサンタ・ローザに住むエド・クレイン(ビリー・ボブ・ソーントン)は、義兄フランク(マイケル・バダルコ)の経営する小さな理髪店で働いていました。妻ドリス(フランシス・マクドーマンド)はデパートの帳簿係で、店のオーナーであるデイヴ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)と不倫関係にありました。ある日、理髪店にセールスマン、トリヴァー(ジョン・ポリト)がやって来て、エドベンチャー・ビジネスの話をします。エドはドリスとの不倫をネタにデイヴへ脅迫状を送り、1万ドルを手にしてトリヴァーと契約します。しかし脅迫状の送り主だということがデイヴにバレたエドは、思わずデイヴを刺殺してしまいますが、ドリスがデイヴの殺人容疑で逮捕されます。エドは腕利きの弁護士リーデンシュナイダー(トニー・シャルーブ)を雇いますが、ドリスは自殺してしまいます。トリヴァーとも連絡がつかないエドは、知り合いの弁護士の娘であるバーディ(スカーレット・ヨハンスン)に心の安らぎを求めます・・・。

レビュー・解説 

主人公のモノローグが語る、無駄なものを削ぎ落としたハードボイルドでスタイリッシュなこの映画は、美しいモノクロ画面にとビリー・ボブ・ソーントンの表情が際立ちます。ストーリー展開の妙と相まって観る者をグイグイと引き込み、フィルム・ノワールを讃えるだけではなく、それが現在にも十分に通用する表現手法であることを示す映画です。

 

主演のビリー・ボブ・ソーントンを始め、まさに役者が揃った観がありますが、そのひとりに撮影時16歳前後のスカーレット・ヨハンソンがいます。2003年に「真珠の耳飾りの少女」、「ロスト・イン・トランスレーション」でブレイクする前の作品ですが、ピアノ演奏をたしなむ素直な良い娘だが実はしっかりと性に目覚めている少女を、堂々と演じています。

 

サウンド・トラックには、ベートーベンのピアノソナタを中心に、数々の名曲が効果的に使用されています。

 

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1. ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」より バーディーの「悲愴」(ベートーヴェン)
2. 歌劇「フィガロの結婚」より「やさしいそよ風が」(モーツァルト)
3. ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 作品79より ドリスを我が家へ(ベートーヴェン)
4. 何も観ていないドリス
5. デイヴを訪れるエド
6. ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」より エドノの帰宅(ベートーヴェン)
7. バーディー・アバンダス、君を愛してる
8. ナードリンガーのスウィング
9. ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27「月光」より(ベートーヴェン)
10. 闘い
11. 銀行
12. アダージョカンタービレ(ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」より)(ベートーヴェン)
13. エド・クレインの試み
14. アンダンテ・カンタービレ(ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調 作品97「大公」より)(ベートーヴェン)

 

美しい映像

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ビリー・ボブ・ソーントンエド・クレイン)

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フランシス・マクドーマンド(ドリス・クレイン)

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ジェームズ・ガンドルフィーニ(ビッグ・デイヴ・ブリュースター)

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スカーレット・ヨハンソン(バーディ・アバンダス)

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フィルム・ノワールについて

フィルム・ノワール (film noir) は、「マルタの鷹」、「飾窓の女」など、虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画の総称で、狭義には1940年代前半から1950年代後期にかけて、主にアメリカで製作された犯罪映画を指します。 多くのフィルム・ノワールには、男を堕落させる「ファム・ファタール」(運命の女、危険な女)が登場します。また、登場人物の主な属性として、私立探偵、警官、判事、富裕層の市民、弁護士、ギャング、無法者などがあげられます。フィルム・ノワール以前の映画と大きく異なる点は、これらの登場人物が、職業倫理、もしくは人格面で、堕落または破綻しており(もしくは悪化させて行く)、一筋縄ではいかないキャラクターとして描かれている点です。彼らは、シニカルな人生観や、閉塞感、悲観的な世界観に支配されおり、登場人物相互間での裏切りや、無慈悲な仕打ち、支配欲などが描かれ、それに伴う殺人、主人公の破滅が、しばしば映画の核となります。ストーリー展開としては、完全な時系列で物語が語られることはまれであり、モノローグや回想などを使用して、物語が進行することが多いです。 フィルム・ノワールとされる映画には、影やコントラストを多用した色調やセットで撮影され、閉塞感が作品全体を覆います。夜間のロケ撮影が多く、コストの制約もあってその全盛期における作品の多くはモノクロームで制作され、カラーが少ないのがその特徴です。

 

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撮影地(グーグルマップ) 

エドが足しげく立ち寄った友人ウォルターとその娘バーディの住む家

関連作品

「バーバー」に影響を与えた小説Amazon

  ジェームズ・M・ケイン著「殺人保険」

  ジェームズ・M・ケイン著「郵便配達は二度ベルを鳴らす

 

コーエン兄弟監督作品

dayslikemosaic.hateblo.jp

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