夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」:リーマン・ショックに阻まれたアメリカン・ドリームの生々しいドキュメンタリー

「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」は、2012年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。フロリダに総工費100億円のベルサイユ宮殿を模した邸宅を建設中、リーマンショックによりアメリカンドリームの頂点からどん底に叩き落された夫婦の現実を描いています。当初は、大豪邸完成までを追う予定でしたが、リーマンショックの影響で大富豪転落の記録映画となってしまったいわくつきの記録映画です。2012年サンダンス国際映画祭でドキュメンタリー部門監督賞を受賞しています。

 

 

「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」のDVD(Amazon

 

監督:ローレン・グリーンフィールド
出演:デイヴィッド・シーゲル
   ジャクリーン・シーゲル
   リチャード・シーゲル
   ほか

 

【あらすじ】

無一文からタイムシェア(共同所有)リゾートビジネスで、巨万の富を得る大富豪となり、ジョージ・W・ブッシュを大統領にのし上げた男と言われる夫デヴィッド・シーゲルと、元ミセス・フロリダでグラマラスボディをもつブロンドの妻ジャッキーは、2500平米もの大邸宅で贅沢三昧の暮らしを送っていました。二人が抱いた野望の頂点は、ベルサイユ宮殿を模したその総工費は100億円のアメリカ最大の邸宅を作るという夢でした。10のキッチン、15の寝室、30のバスルーム、500人収容のパーティーホールなどを擁する新居建設が開始、ホワイトハウスの2倍の大きさを誇る約8400平米の、文字通り宮殿クラスの大豪邸になる予定でした。ローレン・グリーンフィールド監督は、このとてつもなく壮大なアメリカンドリームを記録することを夫妻に打診、2007年、彼らのベルサイユ宮殿完成までを記録するドキュメンタリー映画として撮影がスタートします。しかし、2008年の秋、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻により世界的な金融危機が起こり、シーゲル夫妻も大きな負債を抱える身になってしまいます。デヴィッドが金策に追い詰められていく中、六割がた、完成していたベルサイユ・ハウスの建設も中断されます・・・。

 

リーマン・ショックにより阻まれた、ひとつのアメリカン・ドリームの生々しいドキュメンタリーです。それぞれの貧しさから一代で這い上がったデイヴィッドとジャクリーンのシーゲル夫妻の、リアルな人物描写に強烈なインパクトがあります。明るい笑顔に溢れた前半に対して、次第に追いつめられた表情になっていく後半が痛々しいです。ベルサイユ宮殿を模した豪邸を作ることに関しては賛否両論あると思いますが、夢と挫折は多くの人々の人生にとって普遍的なテーマでしょう。

 

二人の人生に関して、ローレン・グリーンフィールド監督は次のように語っています。

デヴィッドとジャッキーの人生すべてに興味をそそられました。二人が貧しい生まれであることと、無一文から大富豪になったという物語が、皆が思う「普通」の億万長者より、もっと地に足がついた、親しみやすい存在にしているのです。 ジャッキーは信じられないくらい寛容で、心が広く、付き合いやすい女性です。デヴィッドの労働観や、事業や従業員に対するひたむきな献身ぶりは、尊敬に値します。しかし、二人はアメリカ最大の邸宅を建設するという計画を持ち、並外れた生活を送っていました。ほとんどの人が、常軌を逸していてやりすぎだと考えるような目標です。しかし、リーマン・ショックや、財政的な苦労によって、彼らは現実の世界に呼び戻され、それがある意味、思いもよらなかった形で、彼らを共感できる存在にしたのです。

撮影で彼らを知るにつれ、本当に驚いたことがありました。一つはデヴィッドがラスベガスでではなく、自分の事業において、ギャンブラーだったということ。彼は10億ドル以上の大金を持っていましたが、その当時、世界で最も高いタイムシェアのビルになる予定だった6億ドルのラスベガスタワーの建設に必要だったビジネスローンの個人的な保証人になり、資産の全てを事業の成長に賭けたのです。

また私は、最初はジャッキーにも驚かされました。彼女は自家用機や豪邸を持ち、買い物三昧する億万長者の生活を愛しているように見えます、しかし、金融危機に見舞われると、家族を大事にする思いや、夫への愛が引き出されます。

私が思っていたほど、彼女にとってお金は重要ではなく、どんなことがあっても夫のそばにいるであろうことは明白でした。ジャッキーは自分にお金が無い時でも、困っている友人にお金を貸してあげていましたし、つらい時期も家族をまとめようと努力していました。ジャッキーもデヴィッドも、金融危機による厳しい日々を通じ、サバイバーとしての彼ら本来の姿を見せてくれたのです。

 

デイヴィッド・シーゲルは、その後、彼が築き上げた事業の象徴とも言える PH Towers Westgate の経営権を手放しました。ベルサイユ・ハウスは買い手がつかないままで、デイヴィッドは完成まで2〜2年半かかると語り、ジャッキーは引っ越しできる状況にならなくてもデイヴィッドの80歳の誕生パーティはベルサイユ・ハウスで祝いたいと語っていましたが、工事はほとんど進んでおらず、これは実現しなかったようです。インサイダーのインタビューに答えて、ジャッキーは次のように語っています。

まだ、私の物語は終わらないわ。それは、ハッピー・エンドなの。私の人生の次の章で、私は宮殿でたくさんのパーティを開くのを楽しみにしているの。世界中に見て欲しいわ。

 

今年の6月には、撮影時12歳だった愛娘のヴィトリア・シーゲルを、薬物の過剰摂取により18歳の若さで失うという悲劇が夫妻を襲いました。人生、良い事ばかりではなく、悪い事が続く事もあり、夫妻も辛い日々を送っているのではないかと思います。何を持って夢とするか、何を持って成功とするか、人それぞれですが、貧しさから一代で這い上がって来たシーゲル夫妻には、是非、不屈の精神で幸せになって欲しいと思います。

 

建設中のヴェルサイユ・ハウス(右)

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デイヴィッド(左)とジャクリーン(右)のシーゲル夫妻

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ジャクリーン、乳母と8人の子供達

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建設中のベルサイユ・ハウス

 

富豪の事業の象徴だった PH Towers Westgate