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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「グランド・ブダペスト・ホテル」:富裕層向け老舗ホテルのコンシェルジュの哲学と色香を、コミカルにヴィヴィッドに描く

ドイツ映画 イギリス映画

グランド・ブダペスト・ホテル」(原題: The Grand Budapest Hotel)は、2014年公開のドイツ・イギリス合作のコメディ&ドラマ映画です。ウェス・アンダーソン監督、レイフ・ファインズ主演で、仮想の国ズブロフカを舞台に、ホテルのコンシェルジュとベルボーイが得意客の殺人事件に巻き込まれる姿が描かれています。第87回アカデミー賞で9部門にノミネート、美術、衣装デザイン、メイキャップ&ヘアスタイリング、作曲の各賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン/ヒューゴ・ギネス
出演:レイフ・ファインズ(ムッシュ・グスタヴ・H)
   F・マーリー・エイブラハム(ミスター・ムスタファ)
   マチュー・アマルリック(セルジュ・X)
   エイドリアン・ブロディ(ドミトリー)
   ウィレム・デフォー(ジョプリング)
   ジェフ・ゴールドブラム(コヴァックス)
   ハーヴェイ・カイテル(ルートヴィヒ)
   ジュード・ロウ(若き日の作家)
   ビル・マーレイ(ムッシュ・アイヴァン)
   エドワード・ノートンヘンケルス
   シアーシャ・ローナン(アガサ)
   ジェイソン・シュワルツマン(ムッシュ・ジャン)
   レア・セドゥ(クロチルド)
   ティルダ・スウィントン(マダム・D )
   トム・ウィルキンソン(作家)
   オーウェン・ウィルソン(ムッシュ・チャック)
   トニー・レヴォロリ(ゼロ)
   ボブ・バラバン(ムッシュ・マーティン)
   ほか

あらすじ

一人の女性が、ズボロフカの偉大な作家の銅像の前で「グランド・ブダペスト・ホテル」の本を読み始めます。

1985年、作家は語ります。ズボロフカのアルプスの麓、スベルスバートにあるグランド・ブダペスト・ホテルで、1968年に老紳士から聞いた物語を。当時、静養のためホテルを訪れた作家は、移民からこの国一番の富豪になったゼロ・ムスタファと知己になります。ホテル最上階の使用人用のシングルに泊まる彼に興味を持った作家は、ディナーで彼の昔語りを聞きます。

1932年、グランド・ブダペスト・ホテルは、名コンシェルジュ、グスタブの下、富裕層が集まる華やかなホテルとして繁盛していました。ホテルのボーイになったゼロは、グスタブから様々な教えを受けます。そして菓子店メンドルの店員アガサと知り合い、結婚します。サービスの行き届くグスタブは、裕福だが不安を抱え、性に飢えた顧客たちから熱烈に支持されていました。1938年、その一人であるマダムDは、グスタブと二度と会えない気がすると口にした数日後、新聞にマダム殺害の記事が掲載されます。グスタブはゼロと共に、列車でルッツへ向かいます。移民の旅券しか持たないゼロは途中で拘束されかかりますが、担当した軍人がグスタブの知己で、臨時通行証を発行、事無きを得ます。マダムの邸宅には、遺産を目当てに大勢の親族が集まっていました。遺言執行人のコヴァックスは、基本的な遺言に加え、追加や補足が600通以上に及ぶため、基本的に長男のドミトリーや、その姉妹に遺贈されるものの、遺言の執行には時間がかかると説明します。また、最新の遺言として、名画「リンゴを持つ少年」をグスタブに遺贈することが紹介されます。ドミトリーはグスタブと母に肉体関係があったことを罵倒しますが、グスタブは「マダムの所有する美術品の中で唯一価値があるもの」と狂喜、マダムの執事セルジュの協力を得て「リンゴを持つ少年」を持ち出します。しかし、ホテルに戻ったグスタブは、マダム殺害の容疑で逮捕され、拘束されます。全てはドミトリーの陰謀で、彼は私立探偵のジョプリングを使って次々と関係者を殺害、有力な証言者のセルジュは失踪してしまいます。監視塔の中でも優雅なグスタブは、脱獄を計画、アガサの協力を得てこれに成功します。ホテル・コンシェルジュのネットワークの協力を得てゼロと共に逃亡したグスタブは、修道院でセルジュと再会します。セルジュは、マダムが殺害された時に有効となる第2の遺言の存在を告白しますが、詳細を説明する前にジョプリングに殺害されてしまいます・・・。

レビュー・解説 

富裕層を相手に栄華を誇ったホテルの名コンシェルジュの哲学と色香を、ゆっくりとした時代の流れの中で、コミカルにかつヴィヴィッドに描いています。古色蒼然としたヨーロッパの厳めしい建物にも、そんな時代があったのだという事を実感させてくれる映画です。時代設定は、1932年と1968年、1985年の3つあり、時代に応じて1.33:1、1.85:1、2.35:1の3種類のアスペクト比を使い分け、時間の入れ子構造を表現するという手法を使っています。また、例えば1932年はパステル調を基調にするなど、シーンごとにカラーテーマを決め、衣装や道具もそれに合せて撮影しており、色彩が美しい映画です。

 

当初、撮影には本物のホテルを使おうとハンガリー、ドイツ、チェコ、スイスなどをロケハンしましたが、古いホテルはもうなくなっているか、大規模な修復を要するものがほとんどで、最終的にドイツのザクセン州のゲルリッツで撮影することになりました。ドイツ最東端にあるゲルリッツには、500年にもわたる歴史的建造物が3000個以上あり、街全体が中世のまま現在に残っているような街で、ユネスコ世界遺産に登録されるほどの美しさで有名です。

 

ゲルリッツの街の半分はドイツ、残りの半分はポーランド領で、さらにチェコからは20分ほどの距離です。ゲルリッツの百貨店でホテルのロビーのシーンを撮影、レストランなど他のシーンはすべてこの百貨店の近くで行なわれました。キャストは全員、ゲルリッツの Hotelrse に宿泊、ロビーでメイク、衣装をまとった上で移動、各々の場所で撮影が行われています。オスカー俳優が4人、オスカーにノミネートされた俳優が11人も出演する、豪華なキャスティングもこの映画の魅力です。

 

さて、この映画には「シュテファン・ツヴァイクの著作にインスパイアされた」とテロップがでます。様々な史実が巧みに織り込まれており、作家やグスタヴはツヴァイクをなぞったものだという解釈もあります。おそらくそれは間違いではないので、興味のある方は、ツヴァイクの著作を読んでみても面白いのではないかと思います。

 

ツヴァイクとの関連もさることながら、ウェス・アンダーソンは興味深い描き方をしています。彼は入れ子構造による多層の時代の中で描いており、さらに最上層は女性が「墓場」で本を読んでいるという構成です。これは、彼がツヴァイクと古本屋で出会ったことを象徴しているとも考えられますが、ウェス・アンダーソンツヴァイクを阻んだナチスを比喩的に描いているだけではなく、

  • その後の共産主義下でのホテルの衰退を暗示、伯爵夫人の遺産相続を巡り凋落した貴族を風刺している
  • 「グスタヴが守ろうとしていたものは既に当時からなかった」とムスタファに言わせていること

から、ホテルの顧客である王侯貴族の衰退に始まり、現在に至るまでの非常に長い時間を意識して描いています。

 

彼が入れ子構造の中で描いているグスタブの哲学と色香(スタイル、必ずしも性的なものに限定されない)は、コミカルでヴィヴィッドで魅力的です。ツヴァイクの著作にもメロドラマも少なくないのですが、ウェス・アンダーソンは、例え、グスタヴがツヴァイクの化身であること、映画がツヴァイクへの追慕であることを観客が知らなくても、十分に楽しめるように描いており、それがこの映画が幅広い支持を得ている理由のひとつでしょう。

 

<ネタバレ>

余談になりますが、サウンドトラックではバラライカロシア民謡的音楽が演奏され、グスタヴの行動をよりコミカルに見せています。また、エンドクレジットでは小さなキャラクターがコサックダンスを披露しますが、これらはグスタヴのスタイルや彼が守りたかった文化に対置される大衆文化です。 

 

この映画からツヴァイクに対するナチスや、王侯貴族、共産主義の影響を読むことはできます。しかし、もしツヴァイクを知らなければこの映画を楽しめないとしたら、それは多くの人々にとって拷問に近い物になるような気がしますし、それはウェス・アンダーソンの意図したことではないでしょう。

<ネタバレ終り>

 

レイフ・ファインズ(右)とトニー・レヴォロリ(左)

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レイフ・ファインズは舞台もこなす実力派俳優。トニー・レヴォロリと師弟関係をコミカルに演じている。 

 

F・マーリー・エイブラハム

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アマデウス」で主演男優賞を受賞したオスカー俳優。存在感がすばらしい。

 

マチュー・アマルリック

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フランスの大物俳優が突然、出てきてびっくり。

 

エイドリアン・ブロディ(中央)とウィレム・デフォー(左)

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エイドリアンは「戦場のピアニスト」で市場最年少で主演男優賞を受賞したオスカー俳優。「ミッドナイト・イン・パリ」では、ダリをそっくりに演じている。

 

ジュード・ロウ

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個性的な監督の作品に良く出演する。 

 

ビル・マーレイ

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ウェス・アンダーソン監督の作品によく出演している。

 

エドワード・ノートン(中央下)

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軍人姿も様になる。2014年に出演した本作と「バードマン」の両方がオスカー受賞作となった。

 

シアーシャ・ローナン

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なかなか堂に入った演技。「つぐない」で弱冠13歳でアカデミー賞にノミネートされた期待の女優。

 

レア・セドゥ

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マチュー・アマルリックと同時に登場してびっくり。端役のメイド、しかもチクる役だが、存在感たっぷり。

 

ティルダ・スウィントン

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80代の富豪を演じる為にかなりメイクにお金をかけている。「フィクサー」で助演女優賞を受賞したオスカー俳優。

 

オーウェン・ウィルソン

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大学時代にウェス・アンダーソン監督と知り合い、よく共同脚本を執筆している。

 

ホテルのロビー

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ゲルリッツ百貨店を利用して撮影された。

 

グスタフと富裕層の顧客たち

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撮影地(グーグル・マップ) 

グランド・ブダペスト・ホテルのロビーの撮影に使われたゲルリッツ百貨店(正面)

関連作品

ウェス・アンダーソン監督・脚本作品のDVD(Amazon

  「アンソニーのハッピー・モーテル」(1996年)

  「天才マックスの世界」(1998年)

  「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001年)

  「ファンタスティック Mr.FOX」(2009年)

  「ムーンライズ・キングダム」(2012年)

  「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)

 

レイフ・ファインズ出演作品のDVD(Amazon

  「シンドラーのリスト」(1993年)

  「クイズ・ショウ」(1994年)

  「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年)

  「スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする」(2002年)

  「ナイロビの蜂」(2005年)

  「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)

  「ヒットマンズ・レクイエム」(2008年)

  「ハート・ロッカー」(2009年)

  「英雄の証明」(2011年)

  「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2012年)

  「007 スカイフォール」(2012年)

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