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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「4ヶ月、3週と2日」:チャウシェスク政権下のルーマニアで、ルームメイトの中絶に奔走する女子大生を描いた異色作

4ヶ月、3週と2日」(原題:4 luni, 3 săptămâni și 2 zile、英題: 4 Months, 3 Weeks and 2 Days)は、2007年公開のルーマニアのドラマ映画です。チャウシェスク大統領による独裁政権末期、1987年のルーマニアを舞台に、妊娠をしたルームメイトの違法中絶の手助けに奔走する女子大生の緊迫した一日を描き、第60回カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した作品です。

 

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監督:クリスチャン・ムンギウ

脚本:クリスチャン・ムンギウ

出演:アナマリア・マリンカ(オティリア)

   ローラ・ヴァシリウ(ガビツァ)

   ヴラド・イヴァノフ(ベベ)

   アレクサンドル・ポトチェアン(アディ)

   ルミニツァ・ゲオルジ(アディの母)

   アディ・カラウレアヌ(アディの父)

   ほか

 

【あらすじ】

1987年、ルーマニア。旅行にでかけるように身支度するルームメイトのガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)を部屋に残し、ひとり寮を出た女子大生オティリア(アナマリア・マリンカ)は、大学に向かいます。恋人のアディ(アレクサンドル・ポトチェアン)と会うと、頼んでおいたお金を受け取ります。アディは母親の誕生パーティに彼女を誘いますが、それどころではないオティリアは、アディに不信感を抱かせたまま、気まずく別れます。次に、彼女はガビツァから言われていたホテルに向かい、予約を確認しますが、予約は入っていないとフロントで断られます。やむなく別のホテルに予約を入れ、ガビツァに連絡を取ると、自分の代わりに男に会いに行くように頼まれます。ガビツァに言われた通りにべべ(ヴラド・イヴァノフ)と会ったオティリアは、二人で予約したホテルへ向かいますが、当初の約束とホテルが違うことに不機嫌になります。ホテルで待っていたガビツァに合うと、ホテルも違うし、ガビツァ本人が会いに来なかったと、べべは怒りをぶちまけます。「これからやるのは違法行為だ!妊娠中絶はバレたら重い刑に問われる!分かっているのか?」と詰め寄り、二人にある提案を持ちかけます。二人は足りないお金を後で払うからと懇願しますが、ベベは話にならないと帰りかけます。もはや後がない中絶のチャンスを逃がすまいとガビツァは必死にすがりつきますが、覚悟を決めたオティリアは思い切った行動に出ます・・・。

 

語学に明るい訳ではないですが、映画を観ていてフランス語に似ているように聞こえたので調べてみると、ルーマニアは東欧には珍しくロマンス語、すなわち古代ローマ帝国の共通語であったラテン語の口語から発展してきた言語の一つであり、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語などと姉妹語であることがわかりました。また、明らかにロシア語の影響を受けているように聞こえる部分もあり、この国の立地の複雑さを感じます。

 

4ヶ月、3週と2日」はそんなルーマニアで撮られた、非常にインパクトのある映画です。チャウシェスク大統領による独裁政権下の1987年のルーマニアを舞台にしていますが、そこには表立った政治的なメッセージはありません。また、人工妊娠中絶を描いていますが、その倫理性に関するメッセージもありません。革新的な思想も、女権拡大思想もなく、切羽詰まった状況下で厳しい選択をし、思い切って実行していく女性たちの姿をただひたすら描いています。

 

この映画は、クリスチャン・ムンギウ監督が極めて身近だった女性から聞いたプライベートな話を基にしていますが、話を聞いた当初は映画にするつもりも、誰かに話すつもりもありませんでした。彼は、1968年にルーマニアに生まれ、チャウシェスク政権の政策により妊娠中絶が禁止されていた時代を知る世代ですが、後にこの世代に共通する連帯感を感じた彼は、改めて映画にしたくなった語っています。おそらくそれは、起きてしまった事にケリをつけなければならないという切羽詰まった状況で、違法と知りながらも腹を決めて実行、後は口をつぐむというのが生活の知恵だった世代固有の連帯感なのかもしれません。

 

憔悴したルームメイトに、「私がなんとかするから」と突っ走るオティリアは男前です。恋人との会話にオルティアがいらいらするシーンがありますが、女性の気持ちをわからない男性はこんな時はあまり役に立たないかもしれません。男前は必ずしも男性のものではなく、むしろ、腹を決めて実行に移した場合、女性の方が大胆であると言う人もいます。クリスチャン・ムンギウ監督は男性ですが、決断と行動には男も女もないという視点から、この作品を描いたと語っています。政治や倫理、女性の人権など思想を声高に語っているわけではありませんが、生々しい題材を突きつけることにより、非常にインパクトの強い作品となっています。

 

ルームメイトの中絶の為に奔走するオティリアを演ずるアナマリア・マリンカ

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中絶するルームメイトを演じるローラ・ヴァシリウ

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二人が暮らしている部屋、一見、とりとめもない会話から物語は始まります

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わずかですが女性の楽しみの描写も

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アナマリア・マリンカ(右から二人目)はシリアスな映画への出演が多く、「笑わない女優」と言われていますが、このシーンでは微笑んでいるのがわかります。

 

二人はホテルで中絶する医者の話を聴きますが、条件が合いません

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中絶をしてもらう為、オルティアは思い切った行動に

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処置は掻爬ではなく人工流産

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中絶の話を知らない恋人の強引な誘いを断れず、彼の母の誕生パーティに顔を出します

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当時の生活ぶりを彷彿とさせる会話が続きますが、オティリアはホテルに一人残してきたルームメイトが気がかりで上の空です。

 

恋人との会話にいらだつオティリア

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「話し合うことが出来ない人に、何の手助けができるの?」、「大丈夫、当てにしていないから」、(結婚しようという彼に)「ポテトを作るのはいや」と手厳しい。

 

「二度とこの話はしないことよ」

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「二度とこの話はしないことよ」という言葉に、自分たちしかなし得ない事をやり遂げた自負が伺われます。

 

撮影に使用したホテル・アストリア・ブカレスト

 

「クリスチャン・ムンギウ」監督作品

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