夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ナイロビの蜂」:多国籍企業が暗躍するアフリカを舞台にしたラブ・ストーリー仕立てのミステリー&サスペンス

ナイロビの蜂」 (原題:The Constant Gardener) は、2005年公開のイギリスのミステリー&サスペンス/ドラマ映画です。ジョン・ル・カレの同名小説を映画化したもので、アフリカを舞台に国際的陰謀を暴こうとした妻と、愛する妻の遺志を継ごうとする夫の姿を描いています。第78回アカデミー賞では助演女優賞、脚色賞、編集賞、作曲賞にノミネートされ、レイチェル・ワイズ助演女優賞を受賞しています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:フェルナンド・メイレレス
脚本:ジェフリー・ケイン
原作:ジョン・ル・カレナイロビの蜂
出演:レイフ・ファインズジャスティン)
   レイチェル・ワイズ(テッサ)
   ダニー・ヒューストン(サンディ)
   ビル・ナイペレグリン
   ユベール・クンデ(アーノルド)
   ピート・ポスルスウェイト(ロービア)
   ほか

あらすじ

ガーデニングが趣味の温厚で穏やかなイギリス外務省一等書記官のジャスティン(レイフ・ファインズ)は、スラムの医療施設を改善する救援活動に励む妻テッサ(レイチェル・ワイズ)とともに、ナイロビで暮らしていました。ある日、テッサがトゥルカナ湖の南端で殺害されたという報せが届き、彼女と同行していた黒人医師アーノルド(ユベール・クンデ)は行方不明となりました。警察はよくある殺人事件と断定して処理しようとしますが、警察の動きや、テッサに密かに思いを寄せていた同僚サンディ(ダニー・ヒューストン)の不審な振る舞いから、疑念にかられたジャスティンは、妻の死の真相を独自に調べ始めます。そして、その背後にテッサが生前暴こうとしていた、アフリカで横行する薬物実験や、大手製薬会社と外務省のアフリカ局長ペレグリンビル・ナイ)が絡んだ国際的陰謀を知ります。命の危険にさらされながらテッサの遺志を引き継ぐジャスティンは、その過程で改めてテッサへの愛を実感していきます。命を狙われたジャスティンはテッサと同じ道のりを辿り、テッサと同じ湖の南端で命を落としますが、その告別式の席上、テッサのいとこの弁護士によってペレグリンの悪事の証拠となる手紙が世間に公開されます。

レビュー・解説 

原作者のジョン・ル・カレは、元イギリス諜報部員の作家で、冷戦後はグローバル化や格差の問題を取り上げ、「ナイロビの蜂」では多国籍企業の暴走とそれを助ける諜報機関を描いています。アフリカは日本から遠くその情報も限られますが、彼らが抱える社会問題は日本人には想像し難いものがあり、貧困もそのひとつです。未整備の保健医療体制に困っている被験者は御しやすく、インフォームド・コンセントも有名無実、先進国よりも圧倒的安価で被験者を集めやすいアフリカは、製薬会社にとっては魅力的な実験市場です。

 

こうした原作をベースに、優れた出演者に恵まれたフェルナンド・メイレレス監督は、生命力溢れるアフリカの街の風景や、フラッシュバックを利用した巧みな編集により、ラブストーリーとも言える素晴らしい作品に仕上げています。フェルナンド・メイレレス監督の意向により、撮影は、数多くの映画産業がある南アフリカでなく、原作の舞台となったケニアで撮影されています。撮影終了後、スラムの居住者の救済を目的とした「ナイロビの蜂基金が設立され、撮影地に給水タンク、橋梁、教室や学校が設置されました。 

僕は、本来ならスリラーやスパイ映画はやろうと思わない。なぜやる気になったかと言えば、これが製薬会社の悪徳をめぐるストーリーだったからさ。これは僕の祖国、ブラジルでも大問題なんだ。ブラジルではエイズなどのジェネリック医薬品を生産しているんだが、保健相が国民のために安く医薬品を生産しようとしているのに、アメリカはそれを阻止しようと圧力をかけている。貿易に関しても言えることだが、世界の規律は第一世界が自分の利益を守るために作られていて、第三世界には不利であり、犠牲を強いるものなんだよ。もちろん、これは美しいラブストーリーでスリラーでもあるから、その点でも挑戦だ。(フェルナンド・メイレレス監督)

 僕は編集段階で映画を作っていく。これは僕のやり方なんだ。編集するのがいちばん好きだね。脚本があっても撮影段階で自由にいろいろなチャレンジをして、編集しながらいちばん適切な語り方を探っていく。つなぎのシーンが必要だと思ったら、即興的に加えたりもする。脚本家やプロデューサーには内緒だけどね(笑)。役者には設定を与えて自由に動き、しゃべってもらい、それをカメラで追い続ける。セリフの声がかぶっても構わないよ。あとでカットしづらくなるけど、それが自然なんだから。それから、僕は洗練されたイギリス人社会よりアフリカに共鳴している。だからどうしても、ケニアやナイロビの描写を増やしたかったんだ。(フェルナンド・メイレレス監督)

 レイフ・ファインズレイチェル・ワイズの演技は並外れた素晴らしさで、非常に満足しているよ。2人はとても相性がいい。2人ともアドリブをやりたがるタイプでね。たとえばベッドでの会話を急遽加えたんだが、どのテイクにも新しいセリフが入っていて、どれも違う。相手が予期しないことを言うと、それに対応しなければならないよね?それがシーンを生き生きとさせるんだ。こうしたやり方ができるのも、15年間も一緒に働いてくれている撮影監督、セザール・シャローンのおかげだよ(フェルナンド・メイレレス監督)

フェルナンドは、僕の演じるジャスティンを信用してくれた。初日にいくつか提案をすると、彼は「うん、いいアイディアだね。もっといろいろ言ってくれよ。この何カ月か君の頭はジャスティンになりきっていたはずだから」と言ってくれた。これはコラボレーションだ。演じてみながら、常に進化していく感じだよ。彼はドラマと緊張感を、編集の段階で創り出す。つまり、撮影の段階では試してみる自由がたくさんあるってことだ。それに撮影は軽量のカメラを用いて、滑らかで自由なスタイルを取っている。顔の近くに持ってきたかと思うと周囲を動き回る。だから演じていて、とても緊張感があるんだ」(レイフ・ファインズ

フェルナンドは、みんなの口からふと出てきたものが好きなのよ。ものすごくリアルでドロドロしたものが好き。私がしゃべってからあなたがしゃべる、っていうような演劇的なものじゃなくてね。レイフもアドリブが好きだし、とても通じやすくていい関係が築けたと思う。それに、撮影を担当したセザールの仕事の仕方はものすごいのよ。カメラと一緒に走り回って、まるでルポルタージュのような雰囲気なの。私はとても気に入っているわ。とてもとても、とってもね!何時間もかけるんじゃなくて、「ライトが欲しい」って言われたら、セザールは電球を持って走ってくる。あんなにすばやい仕事をする人は見たことがないわ!官僚主義的なところは本当に見あたらなくて、カメラと俳優と電球がいくつかあるだけよ。(レイチェル・ワイズ

 

レイチェル・ワイズ

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エキストラではなく、集まってくる子供達を撮影しています。子供達とレイチェル・ワイズの脚本にないやりとりも収録されています。当初、テッサ役にはエヴァ・グリーンが起用されましたが、スケジュールの都合で辞退、ケイト・ウィンズレット、シエナ・ミラーナオミ・ワッツ、ニコールキッドマンらが代役としてオーディションを受け、最終的にレイチェル・ワイズが起用されました。誰が起用されても不思議がない面々ですが、本作ではレイチェル・ワイズの持ち味が生きているように見受けられます。

 

レイフ・ファインズ

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温厚で穏やかな外務省の役人が妻の死の真相に迫る姿を見事に演じています。

 

ヴィヴィッドに描かれたアフリカの街

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暗い面だけではなく、明るい面も描いています。

 

即興を生かした編集

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笑い声や即興を生かしたリアルな編集が、回想シーンで哀しさを増します。

 

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関連作品 

ナイロビの蜂」の原作本Amazon

  ジョン・ル・カレ著「ナイロビの蜂(上)」

  ジョン・ル・カレ著「ナイロビの蜂(下)」

 

ジョン・ル・カレの映画化作品のDVD(Amazon

  「寒い国から帰ったスパイ」(1965年)・・・北米盤、日本語字幕無し

  「裏切りのサーカス」(2011年) 

  「誰よりも狙われた男」(2014年)

 

レイフ・ファインズ出演作品のDVD(Amazon

  「シンドラーのリスト」(1993年)

  「クイズ・ショウ」(1994年)

  「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年)

  「スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする」(2002年)

  「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)

  「ヒットマンズ・レクイエム」(2008年):Amazonビデオ

  「ハート・ロッカー」(2009年)

  「英雄の証明」(2011年)

  「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2012年)

  「007 スカイフォール」(2012年)

  「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)

  「胸騒ぎのシチリア」(2015年)

    「ヘイル、シーザー」(2016年)

 

レイチェル・ワイズ出演作品のDVD(Amazon

 アバウト・ア・ボーイ」(2002年)

  「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年)

  「愛情は深い海の如く」(2011年)

   「ロブスター」(2015年)

  「女王陛下のお気に入り」(2018年)

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