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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「めぐりあう時間たち」:時代・場所を超えて運命が絡むピューリッツァー賞受賞作を三人の大女優が競演

アメリカ映画

めぐりあう時間たち」(原題: The Hours)は、2002年公開のアメリカのドラマ映画です。「ダロウェイ夫人」の作者であるヴァージニア・ウルフをはじめ、それにかかわる3人の女性の一日を描く群像ドラマです。ニコール・キッドマンジュリアン・ムーアメリル・ストリープの3大女優が競演、第75回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、特殊メイクで演じたニコール・キッドマンが主演女優賞を受賞。第53回ベルリン国際映画祭では3人が銀熊賞を共同受賞しています。

 

 「めぐりあう時間たち」(Amazon

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監督: スティーブン・ダルドリー

脚本: デヴィッド・ヘア

原作: マイケル・カニンガムめぐりあう時間たち-三人のダロウェイ夫人」

出演: 1923年

    ニコール・キッドマンヴァージニア・ウルフ

    スティーヴン・ディレイン(レナード・ウルフ)

    ミランダ・リチャードソン(ヴァネッサ・ベル)

    ほか

    1951年

    ジュリアン・ムーア(ローラ・ブラウン)

    ジョン・C・ライリーダン・ブラウン

    トニ・コレット(キティ・バーロウ)

    ほか

    2001年

    メリル・ストリープ(クラリッサ・ヴォーン)

    エド・ハリス(リチャード・ブラウン)

    ほか

 

【あらすじ】

文学史上の傑作「ダロウェイ夫人」を1925年に書いた女性作家ヴァージニア・ウルフは、1941年に夫レナードへ感謝と「私たち二人ほど幸せな二人はいない」という言葉を残して入水自殺します。物語は、

 1923年、イギリス・リッチモンドのヴァージニア

 2001年、ニューヨーク・マンハッタンのクラリッサ

 1951年、ロサンゼルスのローラ

と、時代も場所も異なる三人の女性の一日を交互に描きながら進行します。

1923年、ロンドン郊外のリッチモンド。過去に二度自殺未遂騒ぎを起こしたヴァージニア(ニコール・キッドマン)は心の病の療養のために夫レナードとこの田舎町に住み、「ダロウェイ夫人」を執筆していました。ある日、彼女のもとに姉のヴァネッサ(ミランダ・リチャードソン)とその三人の子供たちがロンドンから訪ねて来ますが、ヴァージニアは小説の構想に頭が一杯で、上の空、そして「ヒロインを殺す」展開を思いつきます。

1951年、ロサンゼルス。ローラ・ブラウン(ジュリアン・ムーア)は優しい夫ダン(ジョン・C・ライリー)と愛する息子に囲まれ、第二子を妊娠しています。ダンは優しいのですが、他人もうらやむ幸せを手にしたように見えるローラは、理想の妻でいることに疲れており、「ダロウェイ夫人」を愛読、ヒロインに満たされない自分を重ねています。ある日、夫の誕生パーティのケーキを作り始めたところに、親友のキティ(トニ・コレット)が訪れ、子宮の腫瘍の為に入院すると彼女に告げます。「子供を産まなければ一人前の女ではない」と泣くキティに、ローラは思わず口づけをしてしまいます。押し隠してきた愛がキティから拒絶されたことを感じたローラは、息子を隣人に預け、大量の薬瓶を持って一人ホテルへと向かいます。

2001年、ニューヨーク・マンハッタン。編集者のクラリッサ・ヴォーン(メリル・ストリープ)は詩人で小説家である友人のリチャード(エド・ハリス)の受賞パーティーの為に、花を買いに行きます。リチャードは元恋人で、「ダロウェイ夫人」と同じ名のクラリッサをミセス・ダロウェイと呼んでいます。クラリッサは彼と過ごした若き日々の思い出を胸に、エイズに侵され、精神的に混乱しているリチャードの世話を続けています。

1951年、ロサンゼルス。自殺を思いとどまったローラは、息子を迎えに戻り、何事もなかったかのように夫の誕生日を祝います。その夜夫からベッドに誘われ、涙を隠してそれに応じます。

1923年、イギリス・ ロンドン郊外のリッチモンド。ヴァージニアは「ダロウェイ夫人」の構想に関して「ヒロインを死なせようと思ったが、やめて別の誰かを死なせなければならない」と話します。姉一家がロンドンへ帰る間際、ヴァージニアは姉に口づけをします。彼女もまた、許されざる愛を押し隠していました。 姉を送り出した後、ヴァージニアは、駅に向かいます。慌てて追ってきた夫に、リッチモンドでの隔離された生活に不満を爆発させます。彼女を愛するが故に療養に適した土地で共に暮らしてきた夫は、その悲痛な叫びを聞いてロンドンに戻ることを決意します。ヴァージニアは夫に「ダロウェイ夫人」の構想について、「他の人間の命の価値を際立たせるため、詩人が死ぬのよ」と明かします。

2001年、ニューヨーク・マンハッタン。受賞パーティーの準備を終えたクラリッサがリチャードを訪ねると、リチャードは彼らがまだ十代だった、最も輝かしい日々の思い出を語ります。そして、「君のために生きてきた。でももう行かせてくれないか」、「私たちほど幸せな二人はいない」と言い、クラリッサの目の前で窓から飛び降り自殺をします。 作品の受賞パーティーは中止になり、リチャードの死を知った母親ローラが駆け付けます。ローラは、ホテルで自殺を図った1951年のあの日、「二人目が生まれたら出ていこう」と決心し、その後子供二人と夫を置いて失踪したとクラリッサに話します。小説の中で自分が殺されていることにショックを受けながらも、「後悔してどんな意味があるのでしょう、ああするしかなかった。できることをした。誰も私を許さないでしょうね。私は死ぬより生きることを選んだ」と述懐します。

1941年、ヴァージニアは夫レナードへ感謝の言葉を書き記し、入水します。

 

暗い映画ですが、三人の女性の感情が凄まじいです。特に、心の病を持つ気難しい作家を演じるニコール・キッドマンは、作家が乗り移ったかのような熱演です。幸せなはずの結婚生活をじっと耐えているローラを演じるジュリアン・ムーアは、抑えた演技の中にも激しい感情を感じさせます。エイズにかかった元恋人の世話を続けるクラリッサを演じるメリル・ストリープも、押さえた感情が溢れます。叙情的なサウンドトラック*3も素晴らしいです。

 

三人の女性のパートナーを演じる三人の俳優も渋い演技ですが、特に精神的に混乱しているエイズ患者を演じるエド・ハリスは、他で見た事がない演技で、幅の広さを感じます。受賞は逃しましたが、彼もアカデミー賞(助演男優賞)にノミネートされています。

 

ヴァージニア・ウルフが書いた「ダロウェイ夫人」は、第一次世界大戦の爪痕の残るロンドンでの、主人公のクラリッサ・ダロウェイの1日を描いています。「めぐりあう時間たち」はこれに倣い、異なる時代、異なる場所での三人に女性の一日を描いていますが、三人とも現在の生活に疑問を感じていること、レズビアンへの志向があること、当日のパーティを控え心が揺れていることが、「ダロウェイ夫人」の主人公と共通しています。その意味では、立場は三者三様であるものの、この三人の女性それぞれがダロウェイ夫人であると言えます。

 

「ダロウェイ夫人」を書いたヴァージニア・ウルフは、その序文で、「のちにミセス・ダロウェイの分身として意図されることになるセプティマスは、第一稿においては存在していなかった。ミセス・ダロウェイはもともと自殺するか、あるいは単にパーティの終わりに死ぬ予定であった」と語っていますが、これがもうひとつの鍵となり、一見、無関係と思われる三人のダロウェイ夫人が、結びついていきます。

 

「ダロウェイ夫人」に登場するセプティマスはダロウェイ夫人とはほとんど無関係の人物でしたが、「めぐりあう時間たち」の三人のダロウェイ夫人に訪れる結末は、悲惨なものです。ヴァージニア・ウルフ本人は、後に入水自殺、ローラは逃避したものの捨てた我が子を、クラリッサは元恋人を目の前で失うことになります。

 

大胆でありながらよく練られた構成の作品です。原作のマイケル・カニンガム著「めぐりあう時間たち―三人のダロウェイ夫人」は、ピューリッツァ賞を受賞、全米ベストセラー1位を獲得しています。

 

心に病を抱えた気難しい作家を演じるニコール・キッドマン〜「めぐりあう時間たち

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満たされないローラを演じるジュリアン・ムーア〜「めぐりあう時間たち

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介護に疲れたクラリッサを演じるメリル・ストリープ〜「めぐりあう時間たち

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精神が混乱したエイズ患者を演じるエド・ハリス〜「めぐりあう時間たち

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凄いメイクで50年後のローラを演じるジュリアン・ムーア〜「めぐりあう時間たち

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めぐりあう時間たち」の原作本

 

マイケル・カニンガムめぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人」(Amazon

 

バージニア・ウルフが書いた「ダロウェイ夫人」

  バージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」(Amazon

 

「ダロウェイ夫人」の映画

  「ダロウェイ夫人」のDVD(Amazon

 

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めぐりあう時間たち(字幕版)

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めぐりあう時間たち オリジナルサウンドトラック

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