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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」:大胆な作り話で大金を詐取した作家の顛末

アメリカ映画

「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」(原題:The Hoax)は2006年公開のアメリカのドラマ映画です。1970年代初頭に、大富豪ハワード・ヒューズの自伝を捏造して金をだまし取るという詐欺事件を起こした作家クリフォード・アーヴィング が、事件の顛末を自らまとめた回顧録「ザ・ホークス 世界を騙した世紀の詐欺事件」を原作としています。

 

 

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目次 

スタッフ・キャスト

監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:ウィリアム・ウィーラー
原作:クリフォード・アーヴィング「ザ・ホークス 世界を騙した世紀の詐欺事件」
出演:リチャード・ギア(クリフォード・アーヴィング:売れない作家)
   アルフレッド・モリーナ(ディック・サスキンド:アーヴィングの相棒)
   マーシャ・ゲイ・ハーデン(エディス・アーヴィング:アーヴィングの妻)
   ホープ・デイヴィス(アンドレア・テイト:マグロウヒル出版の編集者)
   ジュリー・デルピー(ニーナ・ヴァン・パラント:アーヴィングの愛人)
   スタンリー・トゥッチ(シェルトン・フィッシャー:マグロウヒル社会長)
   イーライ・ウォラック(ノア・ディートリッヒ:ヒューズの元側近)
   ほか

あらすじ

1971年、ニューヨーク。売れない作家クリフォード・アーヴィング(リチャード・ギア)は、新作を出版社に売り込んではボツされていました。ある日、マグロウヒル出版のアンドレア(ホープ・デイヴィス)に今世紀最大の作品を持ってくると言ってしまったアーヴィングは、変わり者で隠遁生活を送っている大富豪ハワード・ヒューズのニセ自伝を書くことを思いつきます。実際に彼に会った人はほとんどおらず、決して表舞台にも出て来ないヒューズを逆手にとり、自分の嘘がバレないと踏んだアーヴィングは、ヒューズの筆跡を真似た執筆依頼を持ってマグロウヒル社に乗りこみます。筆跡鑑定で本物と判定を得て話を進めるとともに、アーヴィングの親友でリサーチの腕があるディック・サスキンド(アルフレッド・モリナ)とヒューズの情報収集に走ります。アーヴィングは巧みな話術で、マグロウヒル社会長のシェルトン(スタンリー・トゥッチ)らを説得、ヒューズの分と合わせて110万ドルの報酬を得ることに成功し、アーヴィングの妻エディス(マーシャ・ゲイ・ハーデン)が偽名でスイスに口座を作りヒューズ名義の小切手を換金します。同じ頃、ヒューズがニクソンらに渡したワイロなどの書類が入った段ボール箱がアーヴィングの家に届きますが、他方、ヒューズの顧問弁護士から抗議があり、嘘がほころびを見せていきます。ヒューズの自伝の話はホワイトハウスにも届き、資金提供などの情報が漏れることを恐れたニクソン陣営は民主党本部を偵察させ、これが後の「ウォーターゲート事件」となることを示唆します。そんな中、別れたはずの愛人ニーナ・ヴァン・パラント(ジュリー・デルピー)との関係をエディスから追求され、家を出ると告げられたアーヴィングは、妻を繋ぎとめるためここでも嘘をつき、大きなプレッシャーの中、彼は幻覚を見る様になります・・・。

レビュー・解説 

タイトルの「ホークス」(Hoax)は作り話の意味です。ハワード・ヒューズは隠遁生活を送っており人前に出ず、経営権を巡りTWAに訴えられても出廷しなかった事から、架空の伝記を出版しても彼が訴える事はないと踏んだとは言え、有名人物の架空の自伝を出版するというダイナミックな話です。見どころはふたつあり、ひとつは前半の騙していくテクニック、もうひとつは、ニクソン大統領に圧力をかける為にハワード・ヒューズに利用されていたのではないかという解釈です。

 

リチャード・ギアは善良そうなイメージで詐欺師には合わないのではないかと思いましたが、ハワード・ヒューズの筆跡を真似た手紙を書いたり、後半、作り話がバレるというプレッシャーから幻覚を見るあたりの繊細さが良く合っています。また、口述筆記のテープ起こしで口調がハワード・ヒューズに似ていく辺りは熱演です。

 

リチャード・ギア〜「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」

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驚いたのは、「ビフォー」シリーズのジュリー・デルピーがほんの少し、出演していること。当時、クリフォード・アーヴィングの愛人だったデンマーク女優のニーナ・ヴァン・パラントを演じる為に、それなりのヨーロッパ系女優が必要だったのでしょうが、ちょっと勿体ないです。

 

ジュリー・デルピー〜「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」

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ニクソン大統領に圧力をかける為にハワード・ヒューズに利用されたという解釈は、原作にはない脚色と思われます。ラッセ・ハルストレム監督は、クリフォード・アーヴィング本人をテクニカル・アドバイザーとして雇っていましたが、あえて脚色し、事件が起こった時代背景にリンクさせてドラマ性を高め、より大きな力に利用されたことを示唆して、罪の相対化を狙ったのではないかと思います。こうした脚色の是非の議論はありますが、ドキュメンタリーならぬドラマのアプローチとしてはひとつの選択肢であり、この映画も脚色によりその評価を落としていることはないようです。

 

興味深いのは、クリフォード・アーヴィングが事件以前の1970年に、天才的贋作画家のエルミア・デ・ホーリーの伝記「贋作」を出版していることです。映画では、クリフォード・アーヴィングは売れない作家として描かれていますが、本人はそれなりの収入があり、裕福な暮らしをしていたと反発しています。それでは、金に不自由していないクリフォード・アーヴィングが偽の自伝を思い立ったのは、エルミア・デ・ホーリーの取材を通じて天才贋作画家に何かしら共感するものがあったからでしょうか?

 

オーソン・ウェルズのフェイク」という映画が1975年に公開されており、エルミア・デ・ホーリーとクリフォード・アーヴィングも出演しています。オーソン・ウェルズは「芸術はひとつの嘘である」と言ったピカソを引用、「真実を理解するための嘘である」とつけ加えてこの映画を結んでいます。そういう意味では、脚色された「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」と、原作の「ザ・ホークス 世界を騙した世紀の詐欺事件」、クリフォード・アーヴィングが出演する「オーソン・ウェルズのフェイク」、そしてハワード・ヒューズの半生を描いた「アビエーター」という四つの嘘を読み解くと、もう少し真実が見えて来るかもしれません。

 

クリフォード・アーヴィングは結局、自白、禁固二年半の有罪判決が下ります。刑務所内で禁煙、重量挙げで体を鍛え、17ヶ月で出所、出版社から受領した前金を自発的に返金します。1981年に回顧録「ザ・ホークス 世界を騙した世紀の詐欺事件」を出版、2006年の映画公開後、映画連動版を再出版します。彼は、服役中から執筆を続けており、著作も20冊ほどになりますが、2012年にはこれらを Kindle 等で電子書籍化、売れ行きも良く、極めて好意的なレビューを得ています。彼は過去を隠していませんが、読者の多くはそれを知らぬまま彼の著書を評価しています。

関連作品 

「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」の原作本Amazon

  クリフォード・アーヴィング 「ザ・ホークス(上)」

   クリフォード・アーヴィング 「ザ・ホークス(下)」

 

関連映画のDVD(Amazon

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