夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アメリカン・スナイパー」:米史上最強の狙撃手の葛藤と運命の皮肉

アメリカン・スナイパー」(原題: American Sniper)は、2014年公開のアメリカの映画です。イラク戦争に4度従軍したクリス・カイルの自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」(原題: American Sniper: The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History)を原作に、過酷な戦場や家族への思いなど、「レジェンド(伝説)」と呼ばれた狙撃兵の葛藤と現実を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール
原作:クリス・カイル著「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」
出演:ブラッドリー・クーパー(クリス・カイル)
   シエナ・ミラー(タヤ・カイル)
   ほか

あらすじ

イラクの瓦礫だらけの町を、アメリ海兵隊の戦車が歩兵と共に進撃していきます。その後方の建物の屋上では、特殊部隊ネイビー・シールズのスナイパーであるクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)が、ライフルを手に掃討作戦を見守っています。海兵隊の進路上に不審な親子を発見したカイルは、母親が子供に対戦車手榴弾を手渡すのを見たカイルは、子供に照準を合わせます。銃声と共に時代は遡り、カイルの幼少期へと戻ります。テキサス州に生まれ、厳格な父親に狩猟を教わりながら育ったカイルは、初めての狩りでライフルを地面に置いてしまい叱られます。ある時、弟をいじめていた巨漢を殴り倒したカイルは、「弱い羊達を守る牧羊犬になれ、狼にはなるな」と、父親から教わります。時は経ち、カウボーイにあこがれてロデオに明け暮れていたカイルは、1998年のアメリカ大使館爆破事件をテレビで見て、愛国心から海軍に志願します。厳しい訓練を突破して特殊部隊ネイビー・シールズに配属され、私生活でもタヤ(シエナ・ミラー)と結婚して幸せな日々を送るカイルでしたが、アメリカ同時多発テロ事件を契機に戦争が始まり、戦地へと派遣されます。狙撃兵として類まれな才能を発揮したカイルは、狙撃精度の高さで多くの仲間を救うなど大きな戦果を挙げたことから「レジェンド(伝説)」と呼ばれるようになりますが、敵からは「悪魔」と呼ばれ18万ドルの懸賞金をかけられます。テロ組織を率いるザルカーウィーを捜索する作戦へと参加したカイルは、元射撃オリンピック選手の敵スナイパー「ムスタファ」と遭遇、何度も死闘を繰り広げます。凄惨な戦いのなかで同僚のビグルスは視力を失い、戦争に疑問を感じ始めたマーク・リーは戦死、強い兄にあこがれて海兵隊に入隊した弟は心に傷を負って除隊します。家族との平穏な生活と、想像を絶する極限状況の戦地との往復。愛する家族を国に残し、彼は何度も戦場に向かいます。戦地から帰国するたびに変わっていく夫に苦しみ、人間らしさを取り戻して欲しいというタヤの願いも空しく、カイルと家族との溝は広がります。4度目の派遣で、サドルシティで工兵を狙うムスタファを倒すという任務を受けたカイルたちは、敵の制圧地帯に展開します。ムスタファを発見したカイルは、「ビグルスのために」と1920mの距離から一発の銃弾を放ち、ムスタファを貫いて彼との長い戦いは幕を閉じます。砂嵐の中で敵の包囲を突破、友軍の装甲車に間一髪乗車し戦場を離れるカイルの後には、地面に置くなと父親に言われていたライフルや大切にしていた聖書、そしてライバルのムスタファの死骸が残され、砂に飲まれていきます。カイルは四度のイラク派遣を終え海軍を除隊しますが、戦争の記憶に苛まれ一般社会に馴染めません。医師に勧められて始めた傷痍軍人達との交流を続けるうちに、少しずつ人間の心を取り戻しますが、退役軍人の一人と射撃訓練に出かけた先でその男に殺害されます。実在するクリス・カイルの子供達への配慮のため、この場面は直接描写せず文字で示され、最後に葬送の記録映像が流されます。

レビュー・解説 

クリント・イーストウッド監督らしい作品です。いたずらに煽ることもなく、「ミリオンダラー・ベイビー」や「グラン・トリノ」のように淡々と厳しい現実を描いています。この映画が、好戦的だという批判がありますが、それは当たっていません。あくまでも、彼が描いているのは「レジェンド(伝説)」と呼ばれたひとりの兵士の葛藤と厳しい現実で、いたずらに感情に訴えることはせずに、解釈を観客に委ねています。

 

国を守りたい一心で志願した特殊部隊ですが、大きな成果を上げる一方で、使命感と極度の緊張感の狭間で、家族と穏やかな時間が過ごせなくなります。除隊後、精神科医の勧めで退役軍人を助ける仕事を始めますが、それが仇となって手を差し伸べた退役軍人の凶弾に倒れます。

  • 退役軍人を助ける仕事を始めて、精神的にも安定し始めた矢先、
  • 四度も赴いた危険きわまりないイラクではなく、安全なはずの国内で、
  • 人と戦うのではなく、人を助けようとして、
  • かつてないほどの銃の名手が、銃でいとも簡単に殺される

という運命の皮肉、厳しい現実をクリント・イーストウッド監督は、観客に投げかけます。

 

終盤、実際のアーカイブ映像に切り替わり、エンニオ・モリコーネの「The Funeral」*3が流れるエンディングのシークエンスは、涙なしに観ることができません。やがてキャストのクレジットがオーバーラップしますが、これがスタッフ・ロールに切り替わるところで音楽が止まります。シーンと静まり返る中、スタッフ・ロールだけが無音で流れていくのですが、ここでまた、わっと涙がこみ上げます。エンド・ロールには音楽がつきものですが、あえてこれを削り、静寂に物言わせた、類を見ない劇的な演出です。

 

当初、脚本はクリス・カイルをヒーローとして描いており、キャスティングも決まっていましたが、突然、本人が殺害されてしまいました。「夫が亡くなる前と後では、映画の意味が決定的に違う」という未亡人の意向もあり、脚本は徹底的に見直されました。クリス・カイルは生前、「映画にするなら、監督はただ一人、クリント・イーストウッドだけだ」と、夢を語っていたこともあり、監督を引き受けたクリント・イーストウッドは、「未亡人と会って話した時から、このような映画になるのは見えていた」と語っています。クリス・カイルが辿った人生は、不条理劇のようでもあります。恐らく、生前のクリス・カイルにその意識は無く、それを浮き彫りにしたのは未亡人であり、クリント・イーストウッド監督でしょう。

 

冒頭、ブラッドリー・クーパーがあまりに太っているのに、驚かされます。彼は、クリス・カイルに似せる為、7ヶ月間、トレーニングを続け、約20キロ、体重を増やしました。ブラッドリー・クーパーは、クリス・カイルに成りきる為にありとあらゆる工夫をし、生前のクリス・カイルを知る人は、「そこにクリスがいると錯覚するほどだった」と、語っています。

 

アメリカン・スナイパー」は、アメリカで公開された戦争映画で史上最高の興行成績を収めるとともに、最も大きな興行成績を収めたクリント・イーストウッド監督作品となりました。決して派手な映画ではありませんが、80歳を過ぎてなお、記録を更新するクリント・イーストウッド監督には驚きです。

 

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関連作品

アメリカン・スナイパーの原作本

  クリス・カイル著「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」(Amazon

 

クリント・イーストウッド監督作品のDVD(Amazon

  「許されざる者」(1992年)

  「ザ・シークレット・サービス」(1993年)

  「マディソン郡の橋」(1995年)

  「ミスティックリバー」(2003年)

  「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)

  「硫黄島からの手紙」(2006年)

     「ハドソン川の奇跡」(2016年)

 

ブラッドリー・クーパーの出演作品のDVD(Amazon

  「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年)

  「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年)

世界にひとつのプレイブック」(2012年)

  「アメリカン・ハッスル」(2013年)

  「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014年)

 

エンド・クレジットが素晴らしい映画

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