夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「トゥモロー・ワールド」:希望の持てない世界から人々を救うものは?

トゥモロー・ワールド」(原題: Children of Men)は、2006年公開のイギリス、アメリカ合作の近未来SFサスペンス映画です。英国の女流ミステリ作家P・D・ジェイムズの「人類の子供たち」を原作に、アルフォンソ・キュアロン監督、エマニュエル・ルベツキ撮影、クライヴ・オーウェンジュリアン・ムーアマイケル・ケインキウェテル・イジョフォーら出演で、子供が誕生しなくなった近未来の地球を舞台に、人類の未来を左右する一人の少女を巡る攻防に巻き込まれた主人公の苦闘をスリリングに描いています。

 

 「トゥモロー・ワールド」のDVD(Amazon

 

目次

スタッフ・キャスト

監督:アルフォンソ・キュアロン
脚本:アルフォンソ・キュアロン/ティモシー・J・セクストン
原作:P・D・ジェイムズ 「人類の子供たち」
撮影:エマニュエル・ルベツキ
出演:クライヴ・オーウェン(セオ・ファロン)
   ジュリアン・ムーア(ジュリアン・テイラー
   マイケル・ケイン(ジャスパー・パルマー)
   キウェテル・イジョフォー(ルーク)
   クレア=ホープ・アシティー(キー)
   ほか

あらすじ 

人類に最後の子供が誕生してから18年が経過した西暦2027年。子孫を生み出す事の出来なくなった人類は希望を失い、世界には暴力と無秩序が拡がっていました。世界の国々が内戦やテロによって壊滅する中、大量の不法移民がイギリスに押し寄せ、政府は国境を封鎖、徹底的に不法入国者を取締り、辛うじて治安を維持していました。アルゼンチンで世界最年少の青年が刺殺されて絶望に包まれた日、ロンドン市街地で爆破テロが発生、英国エネルギー省に勤めるセオ(クライヴ・オーウェン)はすんでのところで難をまぬがれますが、翌朝、セオは出勤途中に元妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)が率いる反政府組織 Fish に拉致されます。ジュリアンの目的は、ある移民の少女を「ヒューマン・プロジェクト」という組織に引き渡す為に必要な通行証を入手することでした。従兄弟の政府高官から通行証を手に入れたセオは、ジュリアンと共に乗り込んだ乗用車で、移民の黒人女性キーと引き合わされます。検問所に向かう途中、セオたちが乗った車は暴徒の襲撃にあい、ジュリアンが撃たれて絶命します。組織のアジトに逃げ込んだセオに、キーは妊娠しており、間もなく出産を迎えると告白、セオは彼女を連れ、命がけの逃避行を開始します・・・。

レビュー・解説 

生々しい夢を見て目が覚め、何故、そんな夢を見たのか考える、アルフォンソ・キュアロン監督の「トゥモロー・ワールド」は、まさにそんな感覚に陥る映画です。何故、子供が生まれなくなったのかその理由が語られることもなく、戦いに明け暮れる絶望に満ちた世界が生々しく描かれています。そこには、ヒロイズムもなければ、感動的なヒューマニズムや、社会的、政治的な主張もありません。子供の生まれない世界、希望の持てない世界が、生々しく投げ出されます。

 

アルフォンソ・キュアロン監督と同じメキシコ出身のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督は、映画「バベル」で「生死にかかわる問題でつながっているにも関わらず、言葉や文化や国籍などの違いによりコミュニケーションがままならない」9.11以降の世界を描き、おぼろげな希望を子供達に託しています。これに対して、アルフォンソ・キュアロン監督は、逆に子供の生まれない世界を描くことにより、希望の持てない世界を描いています。

 

先進国に少子化の傾向があるとは言え、「人類に子供が生まれない」という極端な設定の「トゥモロー・ワールド」がこれほどの現実感を持って観客に迫ってくるのは、何よりもそこに描かれている希望のない世界が「現実的」であるからに他なりません。そんな中、世界でたった一人生まれて来る子供を守ろうと、テオは身を呈します。子供は希望の象徴であり、戦闘中に子供の存在に気づいた兵士が銃撃を中止するシーンは感動的です。

 

アルフォンソ・キュアロン監督は、彼はエンド・クレジットが流れて終わる映画ではなく、エンド・クレジットが真の始まりであるような映画を作りたかったと語っています。彼はこの映画のヴィジョンに関して妥協してしまうことを恐れ、敢えて原作を読んでいません。テロのシーンで始まるこの映画は、あたかも9.11以降の将来に希望を見いだせない世界を象徴しているようでもあり、エンド・クレジットはそれでも将来に希望を託する人々が紡いでいくであろう、未来という映画のオープニングを意図したものでしょう。

 

トゥモロー・ワールド」は戦闘シーンでの長回しを始め、技巧を駆使した臨場感ある映像表現が高く評価され、第79回アカデミー賞では脚色賞、撮影賞、編集賞にノミネートされました。アルフォンソ・キュアロンはメキシコ出身の映画監督で、哲学と映画を学んだ大学時代に、以降全作品でタッグを組む撮影監督エマニュエル・ルベツキと出会います。2001年公開の「天国の口、終りの楽園。」でアカデミー脚本賞にノミネートされ、国際的な評価を得ます。2004年公開の「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の監督に抜擢され、アカデミー視覚効果賞にノミネートされます。2013年公開の「ゼロ・グラビティ」では、アカデミー賞10部門にノミネートされ、監督賞をはじめ、撮影賞、視覚効果賞など最多7部門を受賞しています。

 

トゥモロー・ワールド」は現実感が大きなポイントとなっていますが、リアルな臨場感を生み出している要素のひとつが「長回し」です。次の4シーンはいずれも1カットの長回しに見えるよう編集されています。

  • オープニングの爆破テロシーン(約51秒)
  • 乗用車の襲撃シーン(約4分07秒)
  • 出産シーン(約3分19秒)
  • 終盤の戦闘シーン(約6分16秒)

この映画の撮影監督を務めたエマニュエル・ルベツキは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の撮影監督を務め、編集により全編を一本の長回しで実現するという離れ業を成し遂げました。多くの映画が

  • クローズアップの多用
  • 接写や望遠レンズによる遠景(前景)のぼかし
  • 細かいカット割り
  • 多彩なカメラ位置とその切り替え

といった撮影技術に依存する中、広角レンズ視点の長回し一本の撮影、編集で、多くのアカデミー部門賞を受賞する作品まとめあげたとは驚嘆に値するものであり、撮影技法が未だに進化するものである事を強く、印象づけます。

 

最近、「長回し」そのものが一人歩きし、時間の長さが注目される風潮もありますが、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の戦略的な試みを除けば、他の技法と同様、「長回し」はその効果において評価されるべきものです。「トゥモロー・ワールド」の長回しはその長さではなく(決して短くはない)、ドキュメンタリーのような現実感を実現する技法のひとつとして、この高度な技法が効果的に用いられていることを評価すべきでしょう。極論すれば、観客が長回しに気づくことよりも、臨場感や現実感が観客に伝わることに意味があります。

動画クリップ(YouTube

ニュースで世界最年少の青年がアルゼンチンで刺殺されたニュースが流れ、店を出たセオが爆弾テロに出くわすシーンから、映画は始まります。

 

オープニング〜爆破テロシーン〜「トゥモロー・ワールド

 

セオは従兄弟の政府高官から黒人女性キーを「ヒューマン・プロジェクト」に引き渡す為に必要な通行証を入手、ジュリアン、キーらと車で検問所に向かう途中に襲撃にあい、ジュリアンが撃たれて絶命します。

 

乗用車襲撃シーン〜「トゥモロー・ワールド

 

「ヒューマン・プロジェクト」への手引きをしたジャスパー(マイケル・ケイン)も殺害されます。

 

ジャスパーの死〜「トゥモロー・ワールド

 

命がけの逃避行をするセオとキー、途中で生まれた子供は、戦闘に巻き込まれます。

 

戦闘シーン〜「トゥモロー・ワールド

 

この戦闘中に子供の存在に気づいた兵士は、銃撃を止めます。

 

撃ち方やめ!〜「トゥモロー・ワールド

 

戦いに明け暮れる絶望に満ちた世界に一筋の明かりを見るような、感動的なシーンです。

関連作品

トゥモロー・ワールド」の原作本Amazon) 

  P・D・ジェイムズ著「人類の子供たち」

 

アルフォンソ・キュアロン監督作品のDVD(Amazon

  「天国の口、終りの楽園。」(2001年)

  「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(2004年)

  「ゼロ・グラビティ」(2013年)

 

クライヴ・オーウェン出演作品のDVD(Amazon

  「ルール・オブ・デス/カジノの死角」(1997年)

       ・・・輸入盤、リージョン1、日本語なし

  「ゴスフォード・パーク」(2001年)

  「ボーン・アイデンティティ」(2002年)

  「インサイド・マン」(2006年)

  「シャドー・ダンサー」(2012年)

 

ジュリアン・ムーア出演作品

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マイケル・ケイン出演作品のDVD(Amazon

  「ハンナとその姉妹」(1986年)

  「サイダーハウス・ルール」(1999年)

  「愛の落日」(2002年)

  「バットマン ビギンズ」(2005年)

  「ダークナイト」(2008年)

  「インセプション」(2010年)

  「ダークナイト ライジング」(2012年)

  「グランドフィナーレ」(2015年)

 

キウェテル・イジョフォー出演作品のDVD(Amazon

  「堕天使のパスポート」(2002年)

  「セレニティー」(2005年)

  「インサイド・マン」(2006年)

  「アメリカン・ギャングスター」(2007年)

  「それでも夜は明ける」(2013年)

  「オデッセイ」(2015年)

  「ドクター・ストレンジ」(2016年)

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