夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「エリジウム」:格差とエゴイズムから人類の未来を救うものは何か?

エリジウム」(原題:Elysium)は、2013年公開のアメリカのSFサスペンス・アクション映画です。スペース・コロニーに築かれた美しき理想郷「エリジウム」に暮らす少数の富裕層と、荒廃した地上で虐げられる大多数の貧困層のふたつに人類が分断された近未来の地球の出来事を描いています。

 

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監督: ニール・ブロムカンプ

脚本: ニール・ブロムカンプ

出演: マット・デイモン

    ジョディ・フォスター

    シャールト・コプリーほか

 

2154年、超富裕層は、大気汚染や人口爆発により環境悪化した地球から離れて、衛星軌道上に建造されたスペースコロニーエリジウム」で暮らしています。アーマダイン社が設計・施工したエリジウムでは科学技術によって市民は病気から解放され、水と緑にあふれた理想郷で美しく健康的な人生を享受していました。一方、荒廃してスラム化した地上では、過酷な労働と制約の多い医療やドロイドによる厳しい監視に人々が苦しんでいました。地上のドロイド工場で働くマックス(マット・デイモン)は、作業中の事故により致死量の照射線を浴び、余命5日と診断され解雇されてしまいます・・・。

 

人類にとって厳しい将来が描かれていますが、あり得ない話ではないと感じられます。多くの設定は、既にアメリカやその他の国々で顕著になりつつあり、現在のアメリカや国際社会に対する風刺ととることもできます。

 

人類は少数の富裕層と、多数の貧困層に分断

「21世紀の資本」で話題になったトマ・ピケティ教授はじめ、多くの知識人や国際組織が、アメリカをはじめとする世界の国々の貧富の格差拡大に警鐘を鳴らしています。このまま格差が拡大しつづけると、映画で描かれているような社会になっても不思議はありません。

 

富裕層のみ高度な医療を享受

日本は国民皆保険制度により、すべての人々が高度な医療を受けることができますが、アメリカでは高度な医療を享受できるのは富裕層のみです。日本でも少子高齢化により医療費が増大し、国民皆保険制度の存続を危ぶむ声もあります。

 

ITが人々を監視

映画では人々はドローンによって監視されていますが、現在でも人々は防犯カメラによって監視され、また、アメリカ政府は国民の電話の盗聴もできます。また、ドローンも一般消費者が入手できるほど安価になり、法規制のあり方が問題となっています。

 

企業と政府の蜜月

映画では、役人がアーマダイン社に対して自分に都合の良い管理プログラムの変更を要求します。そこには民主主義のかけらもなく、役人と企業の都合で物事が決まっています。国民皆保険を目指したアメリカのオバマ・ケアは、結局、企業に都合が良い様に法案が作られ、骨抜きとなりました。企業が幅を効かせるコーポラティズムの時代になりつつあり、アメリカの民主主義は死んだと言う人もいます。

 

エゴでしか動かない人々

登場人物はすべて、権力、金の為など、エゴで動いています。マックスも例外ではありません。彼は自分の命を救う為に行動を起こし、フレイ母子を助ける事を断りました。拝金主義が蔓延し、自分の利益の為にしか人々が動かない現代社会を象徴しているようです。

 

主演のマット・デーモンは、ニール・ブロムカンプ監督について、次の様に語っています。

「彼は、メッセージ映画ってものをまったく信じていない。加えて、この映画はそうした問題に解決策を授けているわけでもない。彼は「見終わった20分後に、映画のラストについて『あれ?』って首をかしげてもらうのがいい」って言う。僕が演じたマックスが、エリジウムをみんなに解放するというのは、実は大していい決断じゃないんだ(笑)そうしたところで絶対にうまくいかないから。「いい映画だったよ。最後に主人公がコロニーを解放してさ…待てよ…そしたら結局エリジウムも地球みたいになっちゃうんじゃね?」って(笑)観た人がそう思うのが大事なんだ(笑)そういう会話をもたらすのが監督の狙いで、政治的な何かを伝えたいわけじゃない。」

 

結局、どの道、死ぬしかないところまで追い込まれ、どうせ死ぬならと、人々が救われる道を選んだマックスの記憶の中で、シスターの声が響きます。

(Sister's voice)Everyone has one special thing, Max. One thing they are destined to do. One thing they are born for.

(シスターの声)誰でも何か一つ特別な事があるのよ、マックス。成すと運命付けられた事、その為に生まれてきた事が。

  

このエンディングには自己犠牲のヒロイズムとの批判もあるようですが、いずれにせよ、彼の行動はマット・デーモンの言う通り、究極の解決策になっていません。むしろ、人類が幸せになるヒントは、マックスの幼なじみフレイが娘のマチルダに示す愛情、そしてマチルダが語る寓話にあるような気がします。

Matilda: Once was a meerkat who lived in the jungle. He was hungry but he was small. So small... And the other big animals had all the food because they could reach the fruits. So he made friends with hippopotamus to ...

Max: Okay stop. It doesn't end well for the meerkat.

Matilda : Yes, it does, because he can stand on the hippopotamus's back to get the all the fruits he wants.

Max: What's in it for the hippo?

Matilda: Hippo wants a friend.

マチルダ:昔、ジャングルにミーアキャットが住んでいたの。彼はお腹が空いていたけど、彼は小さかったの。ほかの大きい動物は果実に届いたので、食べ物を食べる事ができたの。だから、彼はカバとお友達になったの・・・。

マックス:もう、いい、止めろ。ミーアキャットにとって、いい話にはならない。

マチルダ:そんなことないわ。彼は、カバの背中に乗って好きなだけ食べ物を取れるの。

マックス:カバに何の得があるんだ?

マチルダ:カバはお友達が欲しいの。

 

資本主義経済が成熟するにつれ、「世の中、すべて金」、「自分の得にならないことはやらない」という風潮が、以前にも増して強くなってきているような気がします。愛情、友情といった人と人との結びつきが尊いものであることを強く再認識して社会を考えていかないと、人類の将来はいつの間にか「エリジウム」のようになってしまうのではないだろうか・・・?と、見事、ニール・ブロムカンプ監督の術中にはまり、そんな事を考えさせられました。

 

マット・デーモンやジョディ・フォスターのパフォーマンスは期待通りですが、助演のシャールト・コプリーの演技が注目されます。彼は、南アフリカのプロデューサー、俳優、映画監督で、同じくニール・ブロムカンプ監督の「第9地区」や、「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」、「マレフィセント」などに出演しています。

 

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シャールト・コプリーの出演作

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