夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アナと雪の女王」:白馬の王子は幻想、愛の本質は愛する事

アナと雪の女王」(原題:Frozen)は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオズ製作による2013年公開のアメリカのCGアニメよるミュージカル・ファンタジー映画です。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話「雪の女王」をモチーフにしたこの作品は、雪と氷の魔力を持つ女王エルサ、そのエルサと王国を救うため冒険の旅に出る妹アナの姉妹愛と運命を描き、アニメ映画として全世界歴代1位の興行収入を記録する大ヒットとなりました。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:クリス・バック/ジェニファー・リー
脚本:ジェニファー・リー/シェーン・モリス
原案:ハンス・クリスチャン・アンデルセン雪の女王
製作:ピーター・デル・ヴェッチョ/ジョン・ラセター
出演:クリスティン・ベル(アナ)
(声)イディナ・メンゼル(エルサ)
   ジョナサン・グロフ(クリストフ)
   ジョシュ・ギャッド(オラフ)
   ほか

あらすじ

幼い頃は大の仲良しだったアレンデール王国の王女姉妹エルサとアナですが、触れたものを凍らせてしまう魔法の力を持つ姉エルサは、ある時、アナを危険にさらしてしまい、魔法を封印し部屋に閉じこもってしまいます。やがて、国王夫妻が不慮の事故で亡くなり、エルサは新女王として戴冠式に臨みますが、魔法の力を制御できずに真夏の王国を冬に変えてしまいます。エルサは城から逃亡、雪山の氷の城で「雪の女王」となり、それまで抑え込んでいた本来の自分を解放していきます。エルサが心を閉ざしてしまった理由を知ったアナは、大好きな姉と王国の危機を救うため、危険を顧みず雪山の奥深くへと旅立ちます・・・。

レビュー・解説

女性として初めてディズニー長編映画の脚本を書き、監督を務めたジェニファー・リーによると、アナは18歳、エルザとクリストフは21歳、ハンスは23歳で、エルザはディズニー初の二十代の王女で、初めて王冠を受け女王となった王女でもあります。ハンス、クリストフ、アナ、スヴェンは、原作者のハンス・クリスチャン・アンデルセンに因んだネーミングで、続けて読むと似た発音になります。

 

アナと雪の女王」で最も驚いたのは、これまでの白馬に乗った王子様のイメージを壊し、愛の本質は愛される事ではなく、愛する事にあることを強く示唆、女性が何ものにも束縛されずに自分らしく生きる事を礼賛していることです。こうしたメッセージが世界中の子供達にアニメを通して一斉に届けられることには感慨深いものがあります。

 

ジェニファー・リー監督は、「ハンスは鏡として設定されている」と語っています。「彼は才能に恵まれ、魅力的ですが、中は虚ろで、他の人たちを反映するだけなんです。」白馬に乗った王子に恋したアナは、実は自分の幻影に恋していたことになります。そして、アナが王子様に不信を感じると、王子様もアナに不信を反映します。かくして、アナは自分自身で白馬に乗った王子を否定することになります。

 

スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫は、「『アナと雪の女王』は原作を大幅に変えながらも自己犠牲のテーマを変えておらず、また原作どおりに2人のヒロインを「男の子」の手を借りずに描き、今の時代を表した作品になっている」と述べています。

 

また、エルサが男性からの求婚を求めておらず、物語上も姉妹愛など多様な愛の形を描いていることから、「ありのままの自分」を肯定する主題歌「レット・イット・ゴー」を同性愛のカミングアウトとする解釈もあります。これに対し、キリスト教関係者からは子供を同性愛に導くという批判があったり、逆にキリスト教的自己犠牲を尊ぶものという評価を受けるなど、多彩な解釈を生んでいます。

 

エルサの声を演じたイディナ・メンゼルは、「ディズニーによる女性の為の映画であることを誇りに思っています。これは姉妹に関する映画で、二人の女性がお互いに競争しながらも、守り合おうとしています。姉妹の関係はちょっと複雑ですが、特に子供達に見せるには打ってつけの関係です。」と語っています。

 

アナを演じたクリステン・ベルは、「私は、自分が見たいと思う映画の役を演じて人に見てもらう事にわくわくしています。私はずっとディズニーのアニメが好きでしたが、そこに描かれている女性には手が届かない部分がありました。彼女らはあまりに態度が良く、美化されていました。 私はアナを、ずっと身近で、風変わりで、グズで、熱くて、野暮ったく演じたことを誇りに思っています。」 と語っています。

 

ジェニファー・リー監督も 、姉妹が王女であるにもかかわらず同様の感覚を共有していました。「エルサとアナはシンデレラの形式的なキャラクターより、現代的です。彼女らは、シンデレラとは全く異なります。彼女らの、希望、目標、夢は、もっと現代的だと思います。皆さんは、その変化を見る事になります。」

 

「Wait, what? 」(えっ、何だって?)はアメリカの10代〜20代が多用する口語表現のようですが、これはクリステン・ベルのアドリブによって「アナと雪の女王」に取り入れられ、他のキャラクターにも使われています。

 

えっ、何だって?〜「アナと雪の女王

CGによる豊かな表情がいいですね。CGアニメの楽しみのひとつです。因に、オラフのセリフにも、演じたジョシュ・ギャッドがプロデューサーを笑わせようとたくさんのアドリブが入れています。

 

エルサの城を制作するのに、少なくとも50人のアニメーターが必要でした。また、スヴェンのキャラ作りの為に、本物のトナカイがアニメーション・スタジオに運び込まれ、動作や癖が研究されました。また、製作に先駆け、クルーはノルウェーに2週間の旅に出かけました。映画はこの旅に多くを触発されています。風景や衣装、音楽、建物、名前など、その多くをノルウェーの文化に似せています。

 

アナと雪の女王」の主題歌「レット・イット・ゴー 」(原題:Let It Go)は大ヒットし、アカデミー賞の歌曲賞も受賞しました。歌手のイディナ・メンゼルは前作「塔の上のラプンツェル」のオーディションを受けていました。選考なりませんでしたが、これをディズニーのキャスティング担当ディレクターが録音しており、二年後のエルザ役の獲得につながりました。ビートルズの「レット・イット・ビー」(原題:Let It Be )と似たタイトルで、双方とも「放っておく」という意味ですが、let it go は感情や思考を対象とするのに対して、let it be は周囲の状況を対象とします。「レット・イット・ゴー 」は、王女、女王として抑えていた感情を解き放とうという歌なんですね。

 

イディナ・メンゼル「レット・イット・ゴー」〜「アナと雪の女王

曲の途中で、エルサは紫のケープの留め具を外し、ケープは風で吹き飛ばされます。紫は王の権力の象徴ですが、この瞬間に彼女の女王としての責任が吹き飛ぶ事を象徴しています。

 

アナと雪の女王」が公開された2013年の冬は、アメリカの各地で例年より寒かったのですが、エルサとディズニーのマーケティング部門の仕業だというジョークが飛び交ったそうです。

 

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関連作品

アナと雪の女王のモチーフとなった本(Amaozn)

  ハンス・クリスチャン・アンデルセン著「雪の女王

 

ジョン・ラセター監督・プロデュース作品

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