夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「オール・ザット・ジャズ」:天にも昇る夜の愉しみ

オール・ザット・ジャズ」(原題:ALL THAT JAZZ)は、1979年公開のアメリカ映画です。ブロードウェイの振付師で演出家のボブ・フォッシー監督の自伝的作品は、ミュージカル・シーンの迫力ある映像が随所に散りばめられ、アカデミー賞美術賞編集賞、編曲賞、衣装デザイン賞、そしてカンヌ映画祭グランプリ賞を受賞した名作です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ボブ・フォッシー
脚本:ロバート・アラン・アーサー 
   ボブ・フォッシー
出演:ロイ・シャイダー(ジョー・ギデオン)
   ジェシカ・ラングアンジェリーク
   ほか

あらすじ

ブロードウェイの演出家のジョー・ギデオンの生活はヴィヴァルディを聞きながらシャワーを浴び、目薬と飲み薬を服用、「さぁショータイムだ!」と自分を奮い立たせて始まります。酒やタバコ、鎮痛剤で体調不良をごまかし、新作ミュージカルの稽古や映画の編集に飛び回りますが、心臓発作で倒れてしまいます。夢うつつの中、彼は幻想の世界で自らを回想し、思い描いていたショーの幕を開きます・・・。

レビュー・解説

主人公のジョー・ギデオンはとにかく、煙草を吸います。喫煙に比較的寛容だった時代とはいえ、非常に喫煙シーンが多く、彼の不摂生の象徴のひとつとなっています。アメリカには「健康管理もできない者は、社会生活の管理ができない」という見方があり、喫煙や肥満が嫌われます。クリエティブな領域はそうした常識の最後の治外法権だったのかもしれませんが、ジョー・ギデオンは結婚生活もうまくいかず、離婚、おそらく自分がそうした生活から抜け出ることができないと自覚していたのでしょう、再婚の意思もありませんでした。

 

そんな彼が愛したのが、ミュージカルでした。ジョー・ギデオンは、自分の死さえミュージカルしてしまう「ミュージカル馬鹿」として描かれています。それはひとつの美学ではありますが、「オール・ザット・ジャズ」は必ずしも暗い仕上がりとはなっていません。むしろ、愛するミュージカルへのオマージュといった印象が強く、ミュージカルファン以外にも楽しめる内容となっています。ある意味、不健康で暗い設定とも言える「オール・ザット・ジャズ」ですが、むしろ優れたオマージュであることが、多くの人々がこれを支持する理由のひとつになっていると思われます。

 

ボブ・フォッシーが実際に心臓発作で入院した際に、彼の死を題材にしたミュージカル製作を提案したと、女優のシャリー・マクレーンが著書に書いています。彼は必ずしもこれを覚えていなかったという説もありますが、いずれにせよ、ミュージカル映画は製作され、映画公開後8年の1987年にボブ・フォッシーは心臓発作で亡くなります。享年60歳でした。

 

「バイ・バイ・ライフ」〜「オール・ザット・ジャズ

 

タイトルの「オール・ザット・ジャズ」は、彼が脚本・振り付けを担当したミュージカル「シカゴ」の同名の曲に由来します。ここで言う「Jazz」は必ずしも音楽のジャズではなく、俗語で「似たようなもの、戯言、活気」と行った意味で、「all that jazz」で「あれもこれも、何もかも」、「and all that jazz」で「その他(関連すること)諸々」という意味になります。

Come on, babe
Why don't we paint the town?
And all that jazz
I'm gonna rouge my knees
And roll my stockings down
And all that jazz...

という歌詞で始まるこの歌は、「羽目を外してアレコレ楽しみましょう」と(お楽しみに)誘う内容になっています。一部、性的なニュアンスもありますが、後に映画化され大ヒットした「シカゴ」のムービークリップが、その雰囲気を良く表しています。

 

オール・ザット・ジャズ」〜映画「シカゴ」

 

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