夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「グロリアの青春」:若さとは諦めない心の状態!

「グロリアの青春」(原題:Gloria)は、2013年公開のスペイン・チリ合作のヒューマン・ドラマ映画です。セバスティアン・レリオ監督、パウリナ・ガルシアら出演で、離婚を乗り越え、孤独ともうまく付き合い自分の足でしっかりと立ってたくましく生きる中年女性を描いたヒューマン・ドラマです。第63回ベルリン国際映画祭でパウリナ・ガルシアが銀熊賞(女優賞)を受賞、第86回アカデミー賞外国語映画賞にチリ代表作品として出品された作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:セバスティアン・レリオ
脚本:セバスティアン・レリオ /ゴンサロ・マサ
出演:パウリーナ・ガルシア(グロリア)
   セルヒオ・エルナンデス(ロドルフォ)
   ディエゴ・フォンテシージャ(ペドロ)
   マルシアル・タグレ(マーシャル)
   ファビオラ・サモーラ(アン)
   アントニア・サンタ・マリア(マリア)
   ほか

あらすじ

舞台は チリの首都、サンティアゴ。58歳になるグロリア(パウリナ・ガルシア)は、10年以上前に夫と離婚、息子も娘も立派に成長、それぞれ独立した生活を持っていたし、自分も職を持ち、会社で責任ある仕事を任せられて充実していた。時間があればヨガ教室や様々なサークルに参加、夜には中年の独身者たちが集まるダンスホールに通い、孤独を紛らしています・・・。

レビュー・解説

パウリナ・ガルシアの体当たり演技が素晴らしいです。積極的に愛を求める58歳のグロリアを、映画公開時53歳の彼女がベッドシーンも辞さない体当たりで演じます。パウリナ・ガルシアはこの映画で、見事、ベルリン国際映画祭銀熊賞 (女優賞)を受賞しました。 「グロリアの青春」では、70年代から80年代のヒット曲が効果的に使われていますが、この時代のチリは経済危機にあっただけではなく、ピノチェト政権の人権侵害に苦しめられた時代でもありました。グロリアは、あたかも失われた青春を取り戻そうとしているようでもあります。そんな彼女に交際を申し込んだのが、優柔不断な退役軍人というのが皮肉と言えば皮肉ですが、最後には・・・。

 

「グロリアの青春」の中に、アントニオ・カルロス・ジョビンの有名なボサノバ「3月の水」が使われています。みんなでお酒を飲みながら、掛け合いで歌うこの曲は、今まで効いた中で最高です。こんな雰囲気でボサノバが楽しめる場所があるならば、是非、行ってみたいです。

 

  

「3月の水」の歌詞は、「棒切れ、石、道路の終わり、踊りの合間、わずかな孤独、ガラスの欠片、人生、太陽、夜、死、罠、銃・・・」と言った言葉がポンポンと紡がれ、「吹き渡る風、坂道の終わり、一筋の光、無、予感、希望、岸辺は語る、三月の水を、苦悩は終わり、心は安らぐ」と結ぶことを繰り返しています。南半球では3月は秋ですが、夏の間の緊張した雰囲気が和らぎ、安らぎに向かう季節を歌っています。アントニオ・カルロス・ジョビンは英語の詩を前提に北半球、即ち、希望の春をイメージしていたという説もありますが、老いを迎えつつあるグロリアにとっては、少し微妙なところかもしれません。

 

セバスティアン・レリオ監督はインタビューで次の様に語っています。

チリのサンティアゴを行き交う60代に近づいた女性たちには、どこか感動的な佇まいを感じます。厳しい世界の中で自分の居場所を見つけようと戦い、車の中で歌い、孤立し、誰も彼女たちのために多くの時間を割こうとはせず、そして、過ぎた年月の長さにも関わらず、いまだに物事を諦めようとせず、感じ続け、踊り続け、生き続けようとする女性たちです。『グロリアの青春』は、そんな彼女たちの生き方と権利を改めて認識させます。歯と爪で人生に何とかしがみつこうとする、愛らしい女性に魅惑されるからです。(セバスティアン・レリオ監督

 

グロリアを演じたパウリーナ・ガルシアはインタビューで次の様に語っています。

グロリアは60代にさしかかり、新たな段階に踏み出そうとしている女性といえるでしょう。しかし今、彼女の目の前にあるものは老いなのです。社会からは、もうそろそろ落ち着いて、人生の秋を生きていると思われますが、グロリアは60代を春にしたいと思っている。新たな春を手に入れようとしている女性なのです。

私は人生の春夏秋冬というのは自分で決めるべきで、秋であっても自分がまだ早いと思えば、変えていくことが出来ると思っています。グロリアはいつも幸福に向かって突き進んでいます。常に自分が春の状態にあると思っているのが、彼女の面白いところですね。グロリア世代の女性達が何をなしえるのかは誰にも分かりません。ですが、世間が思っている以上に、彼女たちには自由があり、パワーを秘めているのです。

私がグロリアから学んだことは、決断していくことです。そして、その決断によって、導き出した結末を自分で担っていく姿勢にとても共感したのです。この映画を観るときに、男女問わず、皆さんの中にあるグロリアを見つけて欲しいと思います。私も演技をしながら自分の中にグロリアを見つけましたから。(パウリーナ・ガルシア

 

「青春とは心の状態」という言葉を思い出しました。マッカーサーや、デール・カーネギーや、ロバート・ケネディが愛したと言われるサムエル・ウルマンの「青春」という詩の一節で、「青春とは人生のある時期を云うのではなく、心の持ち方を云う。・・・・・・年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時初めて老いる・・・・・・。」とあります。ちょっと堅苦しいですが、要は気の持ちようだと言うのです。若い頃に大変な経験をしたであろうグロリアですが、一方でどこにでもいそうなグロリアでもあります。いい年をしてという人もいるかもしれませんが、若くても覇気が無い人もいれば、老いても生き生きしている人がいます。青春はまさに私たちの心の中にあるものなのでしょうね。

 

「グロリアの青春」のエンディングは、なんと、ローラ・ブロニガンのヒット曲「グロリア」でした!

 

サウンドトラック 

ジョアン・ジルベルトの「3月の水」が収録された名盤

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ローラ・ブラニガンの「グロリア」が収録されたアルバム

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