夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「うつくしい人生」:フランス南部の農家を舞台に、家業の崩壊と再生のドラマを、絵画のように美しい映像でゆったりと描いた感動的な作品

「うつくしい人生」(原題:C'EST QUOI LA VIE?)は、1999年公開のフランスのドラマ映画です。フランソワ・デュペイロン監督、エリック・カラヴァカら出演で、家業の農業を継ぐことに不満を抱きながら毎日を無気力に生きる青年が、父の自殺をきっかけに家庭崩壊の危機に直面し、自らと家族の人生を見つめ直して一からやり直すまでをゆったりと感動的に描いています。

 

 

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目次

スタッフ・キャスト

 監督:フランソワ・デュペイロン
 撮影:テツオ・ナガタ
 出演:エリック・カラヴァカ(ニコル)
    ジャック・デュフィロ(祖父)
    イザベル・ルノー(父)
    ジャン=ピエール・ダルッサン(マリア)
    ほか

あらすじ 

南フランスの田舎町に暮らす青年ニコラ(エリック・カラヴァカ)は、農家の長男として生まれ、祖父の代から続く農業を継ぐことを半ば義務づけられています。しかし、人から与えられた人生を素直に受け入れることが出来ないニコラは、何をするにも中途半端な毎日を送っています。そんなある日、牧場が狂牛病に見舞われ、一家は破産に追い込まれます。すべてを失った父親(イザベル・ルノー)が自殺、祖父(ジャック・デュフィロ)はショックでボケ始め、多額の借金を抱えた一家はバラバラになってしまいます。ニコラは家族とともに慣れ親しんだ土地を離れ、村はずれの小さな家に移り住みます・・・。

レビュー・解説  

「うつくしい人生」は、父の死と一家離散を機に、自分の人生に一歩踏み出す青年の姿を描いています。ゆったりとしたテンポで、劇的な展開もありませんが、見ていて心地よく、思わず引き込まれてしまいます。親子三代の家族の中で、苦悩する父、孫を優しく見守る祖父、大人になりきれない妹など、愛すべき登場人物がわかりやすく描かれており、いたずらに誇張することもなく、淡々と進むところが心地よいです。フランス語のセリフもリズムがあり、詩的、音楽的に聞こえます。そして何よりも、絵画のような映像が美しい。色や陰の使い方がうまいです。以前のテレビのアナログ放送を録画したものを見たのですが、十分に美しかったです。

 

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黄金色ともいえる色調に統一された独特の映像が、どこかミレーに代表されるバルビゾン派の絵画を思わせなんとも美しいです。

  

  ミレー「羊飼いの少女」(Amazon

 

  ミレー「ボージュ山中の牧場風景」(Amazon

 

この美しい映像を撮影したのは、永田鉄男という日本人の撮影監督です。彼は、この作品の後にも、「大停電の夜」(邦画)や「エディット・ピアフ愛の讃歌~」(2007年)などの撮影を手がけています。

 

原題の「C'EST QUOI LA VIE?」は「人生とは何か?」という意味ですが、重々しくなるのを抑え、美しくさらりと描いているのが「うつくしい人生」の魅力です。15年は世の中が変わるのに十分な年月かもしれませんが、フランスの田舎の小規模な農場を舞台にするこの映画は、1999年の公開当時から時代の最先端を映すものではなかったでしょう。むしろ、時代によらない普遍的なものを狙ったのではないかと思います。そういう意味では今でも十分に楽しめますし、今後も同様な作品が制作され続けるようであれば、さらに嬉しいです。

 

 

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関連作品

フランソワ・デュペイロン監督作品のDVD(Amazon

  「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」(2003年)

 

永田鉄男撮影作品のDVD(Amazon

  「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」(2007年)